公益社団法人発明協会

現代まで

液晶ディスプレイ

発明技術開発の概要

 日本企業の発明・技術開発によってLCDは短期間のうちに実用化され普及した。LCD技術革新史上において日本企業が担った主な役割は以下のとおりである。 

(1)液晶の耐久性向上

 LCD技術革新の発火点となったDSM-LCDは、寿命が短いという致命的な欠陥を持っていた。当時のDSM-LCD液晶に添加物を加えずに直流電圧をかけて駆動するのが一般的と考えられていた。1971年シャープの船田文明が蓋を閉め忘れて放置してしまった液晶サンプルを使ったことをきっかけに見いだした方法、すなわち液晶に不純物を加え、直流に代え交流電圧を印加することで動作寿命を延長することに挑戦し成功したことで、DSM-LCDの実用化が可能であることを世界に示した。

(2)ドット・マトリクス表示の実用化

 DSM-LCDの画像表示原理が電気エネルギーで分子を撹乱することで光を散乱するものであることから、表示情報量を増大させようとすると消費電力が大きくなりすぎるという問題があった。これを解決する発明が、ケント州立大学のファーガソン等が1969年に開発したTN-LCDである。 2枚の偏光板の間に液晶分子を90度捻じって配列し、電圧を加えることで分子の向きを変える電界効果により光を通したり遮断したりするという表示原理であるため、消費電力を大幅に削減でき、また寿命も長くコントラストの高いLCDを製造することが可能となった。しかし、ドット・マトリクス方式のように多数の画素で画像を表示するレベルになると、電圧をかける駆動方式に問題が生じる。画素が多くなれば、それだけ電極が増え配線が複雑になり多数の駆動用回路が必要となり、製造上の技術的難易度が高まるとともに生産コストが上昇するのである。この問題を解決するために、少ない駆動用回路で直交する方向に導線を格子状に配しその交点にある多数の電極に時間差で電圧を印加する(時分割駆動による)単純マトリクス駆動方式が考えだされた。その実用化に向けて1973年に日立がその後のスタンダードとなる「任意バイアスの電圧平均化法」を開発し、またシャープやセイコーエプソンなどそのほかの日本企業も、液晶材料や配向材料の開発と制御及び駆動回路の改良などの要素技術の改善を成し遂げ、単純マトリクス駆動方式によるTN-LCDの限界にまで機能を高めた。

(3)表示情報量増大とカラー化

 TN-LCDの限界を突破するカギとなったのが、1984年にスイスのボベリ・リサーチセンターのシェーファー等による発見を基にしたSTN-LCDである。液晶分子の捻じれの角度を90度から180~260度まで大きくすることでオンとオフの電圧差を小さくし、クロストーク問題を大幅に軽減することができたのである。しかし、このLCDには液晶層が厚いために複屈折による位相差が大きく、黄色や青色を帯びるという欠点があった。この問題を解決するために、セイコーエプソンと住友化学、日立と日東電工などの共同研究の成果として、位相差フィルムにより位相補償で着色を除去する手法が1980年代後半に確立された。この技術革新は、白黒表示の実現により視認性を向上させるだけでなくカラー化をも可能とした。1988年にはシャープがカラーフィルターを用いて、単純マトリクス型カラーSTN-LCDの開発に成功した。これらの革新によりLCDの用途は飛躍的に拡大した。

(4)アクティブ・マトリクス型LCD量産技術の確立

 多くの研究者や技術者が夢見たテレビへの応用を実現するためには、応答速度や視野角の改善が不可欠だった。画素一つひとつに取り付けられた半導体(アクティブ素子)で駆動するアクティブ・マトリクス型であれば、十分な性能が期待できることは知られていたが、単純マトリクス型よりもはるかに高度な生産技術が必要であった。日立が1978年に多結晶シリコンを用いたアクティブ・マトリクスの開発を行い、またセイコーエプソンは、1982年にシリコンウェハーを使ったシングルシリコントランジスタ方式を開発し、アクティブ・マトリクス型LCDを用いた世界初のテレビ・ウォッチを発売した。この後、高い画質やサイズ拡大の為、セイコーエプソンは「ポリシリコンTFT方式」へと方向転換し1984年には世界初の液晶ポケットカラーテレビの商品化に成功した。このポリシリコンTFTは高精細低消費電力化に非常に有効なため、現在はスマートフォンの多くに採用されている。スマートフォン市場はLCD全体の2分の1を占める勢いである。

(5)モバイル向け高性能LCD技術の開発

 アモルファスシリコンTFT LCDの開発・産業化と並行して、日本のメーカーは低温ポリシリコンTFT LCDの開発を進めていた。低温ポリシリコンTFT LCDはトランジスタの電子移動度が、従来のアモルファスシリコンTFT LCDに比べ100倍程高く、高精細化や周辺機能の取り込みが可能になるという特徴があった。1986年にエキシマレーザーアニールというシリコンの結晶化技術が日本の研究者により開発され実用化が加速した。最初の低温ポリシリコン TFT LCDは1997年に三洋電機によりデジタルカメラ向けに開発、生産された。その後、他の日本メーカーも生産を始め、ノートPCや携帯電話などに使われた。現在では高精細、低消費電力、狭額縁等が要求されるスマートフォン等モバイル分野では欠かせない重要技術になっている。


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