公益社団法人発明協会

現代まで

携帯電話等デジタル情報暗号化技術

概要

 暗号化技術は、情報の信頼性を高めることにより、個人のプライバシー保護や経済活動の円滑化などに貢献することを目的とするものであり、現代のネットワーク社会において必要不可欠な基盤技術である。現在では、暗号化技術はコンピュータ、交通、通信、家電、半導体など我々の身近な分野で幅広く利用されている。

 暗号にとって最も重要なことは、言うまでもなく解読されないことである。1990年代前半には、本発明の背景となった差分解読法(differential cryptanalysis)や線形解読法(linear cryptanalysis)と呼ばれる新しい暗号解読の手法が相次いで発表され、それまで安全とされてきた暗号が次々に解読されるという状況にあった。このため、安全な暗号の設計手法確立が、暗号研究開発における緊急の課題となっていた。

 本発明はこの課題に対して解答を与えたものである。すなわち、差分解読法や線形解読法では解読困難であることが数学的に保証されるような実用暗号の設計手法を初めて示したものである。本発明に基づいて設計され、1996年にその仕様が公開された暗号がMISTYである。その特許は、暗号利用の裾野を広げることを目的に1998年以来、無償実施許諾されている。この無償化がのちの国際標準化の大きな推進力のひとつとなった。

 MISTYが設計された当時は、パーソナルコンピュータの低価格化と高性能化という状況を背景として、ソフトウエアでの高速処理を目指した暗号がほとんどであったのに対し、MISTYはできるだけ多くの応用分野を持つことを目標とし、ソフトウエアだけでなくハードウエアでも高速かつ小型化できることを目指して設計された。これは当時としてはむしろ例外的な暗号の設計方針であったが、その後の携帯情報機器の需要増加とともに、小型・低消費電力というキーワードで本発明は時代の流れに合致した。

 本発明によって、小型機器、携帯機器でも安全な暗号を利用することが可能になり、MISTYを携帯電話向けにカスタマイズしたKASUMI暗号は、2000年に第三世代携帯電話(W-CDMA)通信の唯一の国際標準暗号として採択され、以来、現在に至るまで世界中で携帯電話を用いた通信の盗聴・改ざん防止に用いられている。国産暗号技術が必須の国際標準として採用されるのはこれが初めてのことであった。

 その後MISTYは、2003年に欧州における産学共同暗号評価プロジェクトNESSIE (New European Schemes for Signatures, Integrity and Encryption) において、安全性と実用性がともに優れているとして推奨暗号に選定され、また同時期に、日本における電子政府暗号評価プロジェクトCRYPTREC (Cryptography Research and Evaluation Committee)においても電子政府推奨暗号に選定された。さらにMISTYは2005年にはISO(International Standard Organization)の国際標準暗号としても採用され、日本の暗号に関する技術力の高さを示す象徴となるに至った。


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