公益社団法人発明協会

現代まで

太陽電池セル

発明技術開発の概要

 太陽電池の最小単位である太陽電池素子そのものが、太陽電池セルである。太陽電池はシリコンなどの半導体で作られており、半導体に光が当たると日射強度に比例して発電するという構造になっている。なお、現在実用化されている太陽電池は、まず素材によってシリコン系と化合物系、有機物系に分類される。そして、シリコン系には結晶系と薄膜系といった種類があり、結晶系には更に単結晶と多結晶といった種類が存在する。

 太陽電池の基本原理は、「光起電力効果」である。この効果は、物質に光が当たると電気が発生することを指す効果であり、フランスの物理学者アンリ・ベクレルが1839年に発見した。ただし、ベクレルが発見したこの効果は、液体中での光起電力効果であって、現在の太陽電池の多くが依拠する、固体中での光起電力効果ではなかった。そのような固体中での光起電力効果は、1876年にウィリアム・アダムスとデイによって観測された。

 現在の太陽電池の原型であるシリコン太陽電池は、1954年、米国ベル研究所のフーラー、ピアソン、シャピンの3名によって発明された。日本では1955年に、シリコンの単結晶育成を研究していたNECの林一雄や長船廣衛らによって初めてpn接合シリコン太陽電池が作られた。この太陽電池は、1958年に東北電力信夫山無線中継局で初めて実用化され、翌年の1959年には山口県笹筏瀬の無人灯台用の電源としても実用化されている。また、1961年にはシャープが世界で初めての単結晶シリコン太陽電付きトランジスタラジオを発売している。

 日本における太陽電池の開発生産は上記4社にとどまらず、多くの企業の努力によって年々進化している。結晶シリコン系では三菱電機がテクスチャー形成法の改善に取り組み、2009年にはセル変換効率を18.9%にまで向上させている。薄膜シリコン系では三菱重工業が成膜速度の向上や大面積の均一成膜生産を実現している。また、富士電機システムズはフィルム基盤を用いたアモルファスシリコン太陽電池をロールツーロールで量産する技術を開発している。化合物系ではホンダソルテックや昭和シェルソーラーが21世紀に入って市場に製品を投入するところとなっている。このように、様々な種類の太陽電池に関する研究開発が、我が国において推進されているのである。以下では、その中でも注目を集めている、CIGS太陽電池、そしてヘテロ接合型太陽電池と薄膜シリコンハイブリッド太陽電池の構造と利点を紹介したい。

(1) CIGS太陽電池

 CIGS太陽電池とは、銅(Cu)、インジウム(I)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を原料として生成された化合物半導体によって発電する太陽電池である。CIGS太陽電池は、1~2μm程度の薄膜で十分に太陽光を吸収できるため、材料コストが安いことやアモルファスシリコンに見られるような光劣化がないといった特長を持つ。また、CIGS太陽電池は、GaとInの組成比を制御することで光学物性を制御でき、より高い変換効率が期待できる。更に、フレキシブル基板に作製可能なCIGS太陽電池は、曲面への設置や持ち運びが容易な軽量の太陽電池としても注目されており、太陽光発電の更なる用途拡大と普及に寄与すると期待されている。CIGS太陽電池の開発については産業技術総合研究所が積極的に行っており、小面積の単一セルで19.8%という世界最高クラスの変換効率を実現している11

(2) ヘテロ接合型太陽電池

 ヘテロ接合型太陽電池はパナソニックが開発した太陽電池であり、両面発電や太陽電池セルの薄型化が可能であったり、結晶シリコン系の太陽電池に比して変換効率が高かったり、熱に強く小さな光も取り込めたりといった特長を持つ。ヘテロ接合型太陽電池は結晶シリコン型と異なる構造を持っており、それによってそれらの特長が引き出されているのである。多結晶シリコンや単結晶シリコンなどからなる結晶シリコン系の太陽電池は、p型とn型のシリコンを張り合わせることで構成される。それに対して、ヘテロ接合型太陽電池は、n型の単結晶シリコンと2種類のアモルファスシリコンで構成されている。n型の単結晶シリコンの両面にi型のアモルファスシリコン層を堆積させ、片面にはp型のアモルファスシリコンを重ねることでp/nヘテロ接合を形成し、もう一方の面にはn型のアモルファスシリコンが重ねられるのである。それによって、単結晶シリコンの表面において良好なパッシベーション性能が得られる。この性能によって、単結晶シリコン表面の欠陥による再結合が抑制されるために、ヘテロ接合型太陽電池は一般の結晶系太陽電池よりも高い変換効率を誇るのである。また、上記のような両面構造を有するために、ヘテロ接合型太陽電池は両面発電が可能であり、機械的なストレスに強いという特長を持っているのである。ヘテロ接合型太陽電池の開発に関しては現在パナソニックが行っており、2014年時点で結晶シリコン系の世界最高の変換効率25.6%(R&Dレベル)を実現している12

(3) 薄膜シリコンハイブリッド太陽電池

 薄膜シリコンハイブリッド太陽電池は、カネカが開発したものであり、短波長の光を吸収しやすいアモルファスシリコンと長波長の光を吸収しやすい薄膜多結晶シリコンの2つのシリコン層から構成される。そのように異なる2つのシリコン層から構成される薄膜シリコンハイブリッド太陽電池は、幅広い感度帯域をカバーするため、太陽光を無駄なく吸収することができる。それゆえ、設置面積当たりの発電効率は、アモルファスシリコンのみの太陽電池に比べて約30%高い13。また、陰の影響を受けにくい性質のセルを採用しているため、薄膜シリコンハイブリッド太陽電池モジュールは、5度という低角度でも優れた発電能力を発揮することができ、間隔をあげずに高密度に設置することができる。それによって、例えば、屋根に設置した場合には、屋根からの熱侵入を約60%軽減でき、またフラットであるゆえに風の影響を受けにくく、屋根への負担を軽減することができる。加えて、薄膜シリコンハイブリッド太陽電池のシリコン層の厚みはわずか3μmであり、これは一般的な結晶シリコン型太陽電池のそれの約70分の1である。したがって、薄膜シリコンハイブリッド太陽電池は、限りある資源の中にあって、わずかな資源で生産することが可能なのである。

(4)バックコンタクト型配線シート方式太陽電池(BLACKSOLAR)シャープ

 BLACKSOLARは、一般的な太陽電池にみられる受光面側の電極を全て裏面へ形成したもので、かつ送電部をICのフレキシブル基板のような配線シートを採用した世界でも類のない構造となっている。受光面側の電極を廃したことで受光量を増やすとともに、電極を通常より広く、かつ本数も200本近くまで形成することで電気を取り出す際のロスを低減した、高効率太陽電池モジュールである。

 シャープでは、自動化を進めた堺の工場で、こうした微細加工、高精度接合の量産化技術を世界に先駆け実現している。この太陽電池(バックコンタクト+配線シート方式のダブル効果)構造により、通常より約9%もの発電量アップが図られ、加えて電極及び配線シートの加工、更にバックコンタクトならではの特長を生かせるパッシベーション技術の改良により、2015年6月発売の製品では、業界トップクラスのモジュール変換効率19.1%を達成した。変換効率向上以外に、長期安定した使用にも耐える信頼性も向上し、低照度特性も改善している。

 更に、BLACKSOLARの構造をベースにした更なる変換効率の向上にも取り組んでおり、ヘテロ接合技術と融合することで、2014年3月R&Dレベルで 25.1%(1.9cm角)を達成している。

(5) 宇宙用化合物太陽電池(世界最高効率)シャープ

 シャープは、JAXAから認定された国内唯一の宇宙用太陽電池メーカーであり、GaAs系化合物3接合型太陽電池を、国内の主要な人工衛星の電源用に製造している。化合物3接合型太陽電池はGaAs系の材料で、トップ、ミドル、ボトムの異なる3つのセル層を有し、広い範囲の波長の光エネルギーを効率よく電気にエネルギー変換するため、30%近い高効率が実現されている。宇宙用太陽電池には、高効率のほかに、広い温度範囲や宇宙線などの厳しい宇宙環境にも耐える高信頼性が要求される。

 シャープは、化合物3接合型太陽電池の高効率化を進め、新たにボトム材料を最適化した材料構成により、2014年には37.9%(地上光下)の世界最高変換効率を達成している。更に、同様の材料構成の太陽電池を集光型に最適化設計し、44.4%(300倍集光下)の高変換効率を達成している。


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