公益社団法人発明協会

安定成長期

G 3ファクシミリ

発明技術開発の概要

(1)G3ファクシミリ高速化かつ国際標準化の要の技術:冗長度抑圧符号化方式

 G3ファクシミリ開発の伝送面における最大の課題である冗長度抑圧符号化方式は、デジタル化、状態識別そして符号化のステップからなる。

 「デジタル化」では、画面の濃淡を白黒2値の画素のデジタル信号に変換する。主走査方向の解像度は、A4判では、1728画素/210mmである。副走査方向は、標準モードが3.85ライン/mm、高品質モードが7.7ライン/mmである。A4判原稿の画素数は、CCITTテストチャートの磁気テープの場合、高品質モードでは2376ラインなので、1728x2376=410万画素である。1画素1ビットで表現できるので、情報源は410万ビットとなる。「状態識別」は、デジタル画素の集合を発生頻度に偏りのある、つまり情報理論でいうところのエントロピーの低い集合体に識別するステップである。「符号化」は、各状態に、「1」、「0」のビットの組み合わせによる符号を割り当てるステップである。

 以上のことから、冗長度抑圧符号化方式の最大のポイントは、エントロピーの低い状態識別法の発見である。ちなみに、標準モードでは情報源は約200万ビットで、G3ファクシミリのモデムの標準速度4800ビットで伝送すると約7分を要する。つまり、1分で伝送するためには、データ量を7分の1つまり圧縮比7を実現する必要がある。

 G3ファクシミリ向けの冗長度抑圧符号化方式は、走査線間の相関の利用の仕方により、1次元符号化、2次元一括符号化方式、2次元逐次符号化方式に分類される。

 1975年11月のCCITTの会合で「1次元方式を基本方式とし、2次元方式はオプションとして継続検討する」で合意され、第7会期直前の1976年11月会合で基本方式の1次元方式の国際標準にMH方式が決まり、第7会期の最大の課題はオプションの2次元方式の国際標準化であった。ここでは、最終的に2次元方式の国際標準化の方式となった2次元逐次符号化方式の技術概要について述べる。

(2)日本提案のREAD方式をベースに2次元方式の国際標準化が成功

 まず国際的な評価試験の結果最も優れた方式とされた日本提案のREAD方式の元になったRAC方式とEDIC方式の原理を簡単に説明する。RAC方式は、図5(1)の現走査線上の変換点Qの位置を符号化するにあたって、参照点P1とP2を決める。P1はQの直前の変化点で、P2は前走査線上のP1より右にあるQと同一の変化方向の変化点とする。ここで、相対距離ℓとdを求め、符号化ビット数の少ないほうを基準点として符号化する。

 特徴的なのは、d=0の状態の発生頻度が全体の5割近く、d=±1を含めると75~80%と大きな偏りがあることである。この状態を1~3ビットで符号化することにより、2次元一括符号化方式よりも高い圧縮比を得ることができる。

 EDIC方式は図5(2)で前走査線と現走査線上の変化点を2個ずつペアにした状態として識別する。2個のうち、一つが前走査線上、もう一つが現走査線にある状態をS1とし、2個とも前走査線上にある状態をS2とし、2個とも現走査線上にある状態をS3とする。S1は、境界が上から下につながっている状態、S2は、境界が上に折り返している状態、S3は境界が下に折り返している状態ともいえる。S1では2つの変化点の位置の差分dを符号化し、S2ではその存在を、S3は2個のRL、ℓ1とℓ2を符号化する。

 日本統一方式のREAD方式は図6で、現走査線上のa1と前走査線上の点b1の位置の差分dを符号化する状態を垂直モードとする。EDIC方式における状態S2をパスモードとし、現走査線上の、連続する2点をℓ1とℓ2でRL符号化する状態を水平モードとする。国際標準となったMR方式では、READ方式における垂直モードの差分dをアルゴリズムの簡易化の観点から±3以内に限定している。

 2次元方式は1次元方式のオプションと位置づけられ、必ずしも実装する必要はなかったが、その後のG3ファクシミリの多くは伝送速度の速い2次元方式も備え、ユーザーの多くも2次元方式を優先的に使用している。2次元方式が「招かれざる客」から「主客」の地位におさまった感が強い。

図5 RAC方式とEDIC方式

図5 RAC方式とEDIC方式

図6 READ方式とMR方式

図6 READ方式とMR方式

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