公益社団法人発明協会

安定成長期

日本語ワードプロセッサ

概要

 日本語ワードプロセッサ(以下、「日本語ワープロ」と呼ぶ)は、大学・研究機関で培われた言語処理学研究を踏まえて、企業による日本語処理技術の実用化を経て、今日に至るまで社会に広く影響を与えるに至ったイノベーションである。

 1964年、IBM等が英文のワープロを発表したが、日本語のそれは文字数の多さ、漢字転換などの複雑さ等の面から開発は極めて困難とみられていた。多くの企業、研究者が挑戦する中で東芝の研究グループ(森健一、河田勉、天野真家、武田公人)は、京都大学長岡研究室などの情報工学の最新の成果を踏まえつつ、英文ワープロに匹敵する日本語ワープロの研究開発を進め、様々な試行の結果、1976年に「かな漢字変換システム」の実用化技術の開発に成功した。また、別途学習機能等を開発することで「編集機能」を可能にするとともに、東芝青梅工場の参加を得て製品のダウンサイジング化も実現した。

 こうして1978年9月、世界で最初の実用レベルの日本語ワープロJW-10を発表し、翌年販売を開始した。発売価格は630万円であった。その後、日本の他社も次々と製品を発表し、価格は急速に低下し、東芝が1985年6月に販売を開始した「Rupo JW-R10」は10万円を下回るまでになった。

 日本語ワープロの出現は、我が国のコンピュータリゼーションをも加速させた。一太郎のような優れたソフトウエアが生まれ、パソコンの普及そして我が国の様々な分野での情報化、オートメーション化を実現する力ともなった。さらに、本来は変換のいらない英語ワードプロセッサにも影響を与え、辞書を備えることにより、スペリングミスを自動的に指摘、修正できるようになった。

 ワープロ専用機は、パソコンの発達などにより21世紀に入ると市場から姿を消していったが、JW-10などで開発された「かな漢字変換技術」と「編集技術」等は、その後のパソコンや携帯電話など日本のあらゆる情報通信分野の日本語入力手段として引き継がれ、発展を続けている。

 さらに、「かな漢字変換技術」で開発された言語処理技術は世界中の象形文字の入力技術に大きな影響を与え、漢字など表意文字を使う言語は、かな漢字変換技術を基にした各国独自の技術開発により、日本語と同じように簡単に入力することが可能となった。

 2008年米国の電気・電子技術学会(IEEE)は、JW-10をマイルストーンに認定した。

画像提供:東芝


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