公益社団法人発明協会

安定成長期

全自動横編機

発明技術開発の概要

 全自動横網機の究極の到達点であるホールガーメント横編機を実現するために、島精機は次のような技術開発を行った。

(1) 4枚ベッド横編機の開発

 従来のセーターの編成では、袖部分のリブ編成、袖と身頃の接合、編み幅の増減 (成形編み)、縄柄、寄せ柄等の編み組織によるデザインなど、筒状編地の前後一方を編成するために前後両方のベッド上の針を用いリブ編成や目移しを行う必要がある。また、編地編成の際、前側と後側の編地が絡み合わないよう、一方の編地を目移しにより移し分け対峙させながら螺旋状に周回編成する。これは2枚ベッド横編機を用いて筒状編地する際の基本的な編成技術であり、1983年島精機より特許出願されている。島精機はこの機構を更に拡張し、2枚ベッド横編機の前後ベッドの上位に更に一対のベッドを備えた4枚ベッド横編機を作製した。1990年代の初頭には、4枚ベッド横編機の試作機を完成させ、1995年までに改良が進められた。
 

(2) 編針の「再設計」

 1847年にベラ針が英国人のマシュー・タウンゼントにより発明されて以来、編機にはベラ針が使われ続けていた。しかし、島精機は1997年新たな針「スライドニードル」を開発した。スライドニードルの利点として、高品質かつ綺麗な編地を編成することが可能となったこと、編成テクニックを12種類に増加させることで、従来の36通りから144通りまで拡大できたことなどが挙げられる。

(3) インテリジェント・デジタルステッチコントロールシステム (i-DSCS)

 指定した寸法通りのニット製品を編み上げるように糸の消費量を測定し、糸送りと戻しの両方向制御しながら糸の供給量を調整する装置であり、±1%という精度で均一なニット製品を生産する。
 

(4) 編成技術に関する特許出願

 よりデザイン性の高いニットウェアを実現するため、各部位や用途に適した伏目におけるループ構造について国内では約30件の特許出願を行い権利保護に努めた。

(5) デザインシステム「SDS-ONE」の開発

 商品企画、デザイン、サンプリング、マーチャンダイジングや販売促進に至るまでの機能をワンセットで提供するデザインシステムSDS-ONEを2000年に開発した。これにより、テストベンチ上での仮想的な商品開発をユーザーが行うことを可能にした。

 ホールガーメント横編機の導入により、従来の縫製品で30%発生していたカッティングロスをゼロにすることが可能となった。また、従来、後工程として存在していた裁断や縫製などを排除できるため、リードタイムの短縮化やコストの最適化が実現された。

 島精機によるSDS-ONE やホールガーメント横編機の市場への投入により、生産工程が短縮化されただけでなく、事前にデザインをコンピュータ上でテストできるようになった。これは消費者が直接服をデザインし、生産することが可能となることを意味する。それは、顧客と生産工程が直接的にリンクした新たな時代の到来をもたらしつつある。


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