公益社団法人発明協会

高度経済成長期

自動改札システム

発明技術開発の概要

 本節では、自動改札システムの理論的基礎を形作った大阪大学によるグラフ理論的手法について簡単に触れたのち8、オムロンの技術開発の概要を説明する9

理論

 大阪大学による理論は、(a)通用経路をなるべく少数のビットで符号化する、(b)乗降駅が通用経路上にあるかどうかの有効判定処理を高速化する、という2点の工学的課題への解決策として登場したものであった。鉄道網における1つの経路を考えることは、線形グラフにおける1つの道を考えることに対応する。したがって、上記の課題は、「与えられたグラフの同一接点を通らないすべての道の符号化を、与えられた接点又は枝が指定された道の上にあるか否かの判定を機構的に行いやすくするという条件の下で考察する問題に帰着する」ことになる10。この理論のエッセンスは、(1)通用経路を、その両端の駅のコードと補木枝の内のどれを通過するのかによって表現したこと、(2)駅が通用経路上にあるか否かの判定を、駅が「木上の道の上に存在するかどうか」及び「通用経路が通る補木枝が定める基本閉路の上に存在するかどうか」の排他論理によって決定するということ、の2点にあった11

切符整列技術

 切符の整列技術については、100μm以下の精度で真直ぐに整列させなければならず、このプロジェクトで最大の課題の一つとなった。最終的には「偏心ローラ」を使う技術に行きつくが、それまでの間様々な搬送機械を試行し、各長所短所を勘案した。

切符搬送技術

 切符の搬送技術については、スピードが重視されることから高速に耐え得る搬送用ベルトのテストを繰り返した。当時平らなベルトは動力用でしかなく、カーステレオのフライホイールからヒントを得たドラムと平ベルトの間に切符を挟んで搬送する構造をまず完成させた。また、ガイドフレームの素材についても当初は冷間圧延鋼板を用い、後にアルミベースに変更したが、ねじれや歪みの処理、走行面の摩耗対策などが壁となった。前者の処理には島津製作所保有の機械を使用することで、後者についてはアルマイト処理することで解決した。

情報読み取り技術

 情報の読み取り技術については、当時最重要パーツである磁気ヘッドを製造していたのはオーディオ用のメーカー数社と総合電子メーカーの一部門のみしかいなかった。

 オムロンの開発した読み取りヘッドは切符にパンチングの穴をあける機械とも連動し、それをゲートに送ってその開閉を指示するようにした。

ゲートバー技術

 ゲートの開閉はゲート手前の光センサで通過する人を感知する方法がとられたが、荷物と人の区別が完全にできず、たびたび誤作動が生じた。繰り返し通過テストを実施し、得られたデータから、人と人との間には必ずスペースが生じることを発見し、人が持った荷物を瞬時に判定するセンサを完成させた。

制御回路技術

 制御回路技術は、多くの自動改札技術の中で最も大きな変化を遂げている。当初の半導体回路はトランジスタとダイオードの組合せであり、また、ICも開発当時既に世に現れていたが、当初はノイズのひどさなどから使用できなかった。採用後も故障が多く発生し、その防止のため様々な措置が必要であった。電卓用マイクロコンピューターの開発によって現在の駅務システムの基礎がつくられ、現在では自動改札機に内蔵されたコンピューターからの情報は、駅の機器のみならず、鉄道全体の中央コンピューターに接続するまでになっている。

 

 (本文中の記載について)

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