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コシヒカリ

概要

 2012年のコシヒカリの作付面積は61万5000haであり、全国の水稲作付総面積の37.5%を占めている。コシヒカリを主たる品種として栽培している都府県は、北は福島県から南は徳島県に至るまで広範囲に及び、栽培していないのは、わずか北海道と青森県に過ぎない。

 コシヒカリの育成は、1944年に長岡実験所(新潟県農業試験場内)で農林22号を母親として、農林1号を父親として交配され、そこで雑種第2世代までの選抜が行われた。第3世代からは農林省福井改良農事改良所(現福井県農業試験場)に移管され、以後、系統選抜と特性検定が行われた。1952年、第7世代に越南17号という地方番号を付され、全国の都道府県で実施される試験に供された。そして1956年に、新潟県と千葉県がこれを奨励品種に採用し、コシヒカリと命名された。福井県で選抜育種を担当したのは石墨慶一郎であった。

 母方となった農林22号は数多くの交配に使われ30品種以上を生み出した。父方の農林1号は東北地方の在来種・亀の尾の孫で、良食味性と耐冷性を併せ持ち、北陸や東北地方で大規模に作付けされ、多くの子孫品種を残した。1979年以来、作付面積1位を続けているコシヒカリは優れた母本でもある。最近の上位10品種は全て、コシヒカリかコシヒカリの子か孫であり、その比率は合計で77.5%に達する(2009年)。

 コシヒカリの最も優れた特性はその食味にある。でんぷん中のアミロース含量がそれまでの日本品種の中で最も低く、そのため炊飯米は柔らく粘りがあり、冷えても硬くなりにくい。いもち病に弱く、草丈が長く倒伏しやすいという弱点があるものの、それを補って余りある優れた特性がある。具体的には、玄米の外観品質がよい、耐冷性が極めて強い、種子の休眠性が強い、熟色がよく粘り強く登熟する、止め葉(最上位葉)が直立して受光体勢がよく登熟がよいことなどである。このうち、耐冷性は日本で普及している品種の中で最も強い「極強」の基準品種になっている。そのため、コシヒカリの子孫には耐冷性を受け継いだ品種が多い。また、種子の強い休眠性も、現在普及している日本品種の中では最強の部類に属している。このため、コシヒカリは草丈が長く倒伏しやすいが、倒伏後の長雨による穂発芽の発生がほとんどない。

 こうした優れた特性を持つがゆえに、コシヒカリは小面積ながら東南アジアを中心に海外でも栽培され、育種の交配母本にも使われている。


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