公益社団法人発明協会

戦後復興期

フェライト

概要

 フェライトとは磁石に引きつけられるいわゆる磁性体だが、金属ではなく焼き物、すなわちセラミックスであり、酸化鉄を主成分とする酸化物である。フェライトで作ったコア(磁心)をコイルの中に入れると、コイルを貫く磁力線の数が数十~数千倍にも増えるため、トランス(変圧器)やアンテナ・コイルの性能が大きく向上する。そして、フェライトは材料としての絶縁抵抗が大きいことから、数百MHz の高い周波数帯まで使用できるという大変優れた性質、すなわち強磁性と優れた絶縁性を有している。

 フェライトは、1930年東京工業大学の加藤与五郎(以下「加藤」と呼ぶ)、武井武(以下「武井」と呼ぶ)両博士の研究により生み出され、その事業化は、東京電気化学工業(現 TDK(1983年に社名変更)、以下「TDK」と呼ぶ)の創業者である齋藤憲三(以下「齋藤」と呼ぶ)によってなされた。高周波(高い周波数の交流電流)対応のデバイスである商品名「オキサイドコア」を初のフェライトコア製品として発売。いわゆる“大学発ベンチャーとして”大きな成功を収めた例としても知られる。

オキサイドコア

オキサイドコア

画像提供:TDK

発売当時のカタログ

発売当時のカタログ

画像提供:TDK

 終戦までのTDKは軍からの大量の受注が主たる取引であった。戦後は、これを失い生産は一時激減した。しかし1947年にGHQ(連合国軍総司令部)が中間周波トランスを使用する方式のラジオへの変更指令を出したことによって、それに必要なフェライトコアの需要が急増し、TDKは復活した。その事業が軌道に乗る一方でTDKは、フェライトが有する様々な可能性を新たな製品分野で次々と開花させた。

 1950年代には無線通信機やラジオのアンテナコアに始まり、さらに、テレビのブラウン管の開発に当たっては、電子ビームを制御するコアを開発し、テレビの大型化、薄型化を実現させた。1960年には新たな産学連携による透磁率を大幅に上回る画期的な通信用コア(H5A)の開発に成功している。

 そして、1960年代から70年代にかけてはテープレコーダ、VTR、フロッピーディスクドライブといった記録(記憶)装置用磁気ヘッドを開発し、併せて記録メディアである磁気テープそのものの開発も進められた。さらに、カセットテープという新たなジャンルでの優れた商品も開発された。

 このようにフェライトは、戦後の日本の電気、電子産業の発展を支える基礎的な部材として、多くの新しい製品分野の開拓に貢献してきたのである。

 東京工業大学で発明され、TDKが工業化した「フェライト」がエレクトロニクス産業発展に与えた長年にわたる多大な貢献が評価され「フェライトの発明とその工業化」は2009年、IEEEマイルストーンに登録された。


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