公益社団法人発明協会

高度経済成長期

郵便物自動処理装置

概要

 郵便物自動処理装置は、郵便局内の仕分作業プロセスの全般を自動化したシステムである。それは、郵便物に消印を印字し、宛地別に区分する作業を行い、現在では配達順に並べ替える作業まで自動で行っている。

 日本の近代郵便制度が1871年(明治4年)に創始されて以来、郵便物の仕分けは、長らく手作業によって行われてきた。作業の自動化が進められるようになったのは、高度経済成長期に入ってのことである。経済成長とともに郵便物の量が急拡大することで、郵便物の配達の遅延が発生するようになり、郵便局の作業スペースも手狭になっていたことから、省スペース化・高速化のための自動区分機械が求められていたのである。郵便番号制度の発足が1968年と定められていたことから、この年に向けて、郵政省(当時)と電機メーカー各社は自動化のための研究開発を進めた。日本電気(以下「NEC」と呼ぶ)では1960年、東京芝浦電気(現 東芝(1984年に社名変更)、以下「東芝」と呼ぶ)では1965年に研究プロジェクトが開始された。光学読み取りによる自動区分機は東芝のTR-2(世界初の手書き文字読取機)、NECのNAS-4といった実用一歩手前の試作機が1967年に完成した。これらの試作機を用いて郵便局内で実験を行い、郵便番号制度の発足した1968年に東芝の実用機TR-4が東京中央郵便局で一般に公開された。1

 その後、さらに一貫した自動化と精度の向上が図られ、1998年の郵便番号の7桁化を経て、2012年現在では、自動処理装置により毎時4万通から5万通の郵便物を仕分けすることができるまでになっている。年賀状等の葉書に限れば毎時5万通以上の仕分けにも対応可能となっている。文字認識の正確さにおいても、漢字1文字の認識率は99.5%以上、フランス語の1単語で認識率で95%以上の正確さを達成している2

 自動化の過程で開発された各種の要素技術は、その他の社会インフラやオフィス機器にも活用されている。例えば、郵便物を一つずつ搬送する技術や紙送りに関連する技術、特に郵便物の搬送にあたっては、多様な大きさ、材質、重さの郵便物に対応するための技術蓄積が進んだが、これらはコピー機やプリンターではもちろん、ATMや改札機等の社会インフラにおいても重要な技術である。また、郵便番号の光学読み取り技術は、初期段階の文字認識技術としては画期的なものであり、その影響はオフィス・オートメーションの広範な分野にわたっている。

 日本の郵便物自動処理システムは海外にも輸出されている。1991年当時、既にNECはオランダ、ノルウェー、ハンガリーなど世界34カ国に輸出した実績をもっていた3。東芝も、韓国、スウェーデン、フランス、カナダ、セルビア、シンガポールなど世界各国に輸出している4。日本とは言語や制度の異なる外国でありながらも、NECや東芝は各国の事情に対応した製品を導入することに成功している。インターネットが発達した近年は、郵便物の量が爆発的に増えることはなく、途上国であっても高度経済成長期の日本とはやや求められる性能が異なっている。そこでは大型の郵便物への対応が求められたり、日本よりも設置場所に空間的余裕があるために、コンパクトさよりも作業のしやすさを追求した設計が求められることもある5。郵便物自動処理装置はこれらの要求に応えながら、日本の誇るインフラの一つとして、輸出が推進されている。

郵便物自動処理装置

郵便物自動処理装置

画像提供:東芝


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