公益社団法人発明協会

高度経済成長期

コンビニエンスストア

イノベーションに至る経緯

(1)セブン-イレブンの出店

 1970年代におけるスーパーの成長期、その売上高は百貨店を抜き小売業界の最大のシェアを占めるまでになっていた。一方、各地においてスーパーの出店は地元商店街をはじめとする中小小売業との深刻な軋轢を生んでいた。このような状況下で、いくつかのスーパーの経営者等は米国で展開しつつあったチェーンストア方式での小売販売に注目し、その日本への導入可能性について検討し、かつ出店を開始しつつあった。セブン-イレブンの生みの親であるイトーヨーカ堂も当時業界17位の中堅スーパーであった。イトーヨーカ堂社長の伊藤雅俊は、まず「デニーズ」においてレストランによるチェーン店展開の導入を決断し、さらに、小売商業面での可能性については、当時取締役であった鈴木敏文が検討を行っていた。鈴木には、小規模な店舗であっても生産性を上げれば生き残れるはずだとの強い信念があった。

 視察で訪れた米国で、鈴木はサウスランド社の「セブン-イレブン」に出会う。この会社は、1927年に創業され、米国のテキサス州の砂漠地帯で氷を売る商店としてスタートしたが、朝7時から夜11時まで週7日16時間営業を行っていたことから後に「セブン-イレブン」と名称変更した。世界のコンビニの嚆矢ともいえる会社であった。鈴木は、この会社との業務提携を進めることを決意する。サウスランド社との厳しい業務提携の交渉や、社内外での根強い消極論への対応など曲折を経て7、1974年5月、セブン-イレブンのフランチャイズチェーン第1号店が東京都江東区豊洲に開店した。第1号店からフランチャイズ店にしたのは「既存小売店との共存共栄を目指している以上、一号店から加盟店にした方が、その目指すところが明確になる」、それは「少ない資金でセブン-イレブンを始めることができ、加盟店が商売に専念できるように」するとの方針からであった8。課題は、その生産性を上げ、本部の支援により加盟店の近代化をいかに実現するかであった。

セブン‐イレブン第1号店

セブン‐イレブン第1号店

画像提供:セブン&アイ・ホールディングス

 コンビニでは1店で約3000点の商品を販売する。その中には何カ月も売れ残る商品と、すぐ品切れになる商品が混在していた。どの商品がどのように売れているのかは不定期に把握するのが一般的であった。セブン-イレブン第1号店では、商品の回転率を高めるため、商品の販売状況を毎日調査し把握することが始められた。

 同時に、売れ筋の商品に仕入れを特化し、販売面積を最大限有効に使うには各店舗が極力在庫を持たなくても済むような仕組みを作る必要があった。そのためには、問屋からの配送を頻繁にかつ必要最小限の小分けで配送する仕組みに変える必要があった。しかし、問屋にとっては負荷の増える配送を値上げもせずに実施するのは困難だった。問屋に対してコンビニの発展による将来のスケールメリットを訴えつつ、セブン-イレブン側としても配送側の効率性を考慮し、特定地域に多数の出店を図るという思い切った決断を行った。第1号店出店からしばらくの間は、江東区に加盟店の出店を集中させた。この結果、短期間に同区内に11件の新規出店が実現し、問屋側も小分け配送を受け入れた。現代まで続く商品の単品管理とドミナント(高密度集中)出店方式というセブン-イレブンの運営の基本は、この第1号店において既にその方向が示されている。

 現在、コンビニの基礎となる商圏は一般には半径400メートルと考えられており、徒歩5分圏内が基本である。出店戦略として市街地では徒歩5~10分程度の近距離に同一チェーンの別店舗が複数あるなど、同一地域内に特定チェーンの店舗が多数出店していることが多い。また、ファーストフードなど新鮮な商品を届けるため1日3回程度の配送がなされている。メーカーからみれば競合会社の商品を混載する共同配送もセブン-イレブンなどコンビニ業界が主導して推進されたものである。

(2)POSシステム(Point of Sale System)の導入

 セブン-イレブンの店舗数は豊洲店開設の翌1975年には48店、3年後の1978年には725店にまで増加した。小口配送が整い店舗の全国展開が進むにつれて増大する商品管理や在庫管理業務は複雑化し、生み出される情報量も飛躍的に増加していった。1980年代に入り、セブン-イレブンはPOSシステムを導入した。やがて、それは顧客ニーズを把握する強力な手段として各店舗事情や環境に即した品ぞろえや調達数の確保に貢献することとなった。

図1 セブン-イレブン店舗数推移

図1 セブン-イレブン店舗数推移

出典:セブン-イレブンジャパンホームページ〈http://www.sej.co.jp/company/suii.html

(2013年12月23日アクセス)

 POSの発祥は米国である。それは商品の販売実績を販売時点で管理していくためのシステムであり、情報技術の進歩に即して発達してきたものであった。1973年に米国のウォルマートは22店舗で導入し、1988年には店舗の90%にPOS端末を設置するまでになった。1999年にはPOSデータを取引先に公開し、サプライチェーン全体の合理化を図っている。日本でも、1970年代にPOSの実証実験が行われ、1972年にダイエーと三越百貨店で、日本初のバーコードによるチェッキングシステム実験が開始されている。1980年代になると、コンビニでも広くPOSが導入されるようになった9

 中でもセブン-イレブンは、1982年にPOSを導入すると得られたデータを基に、仮説を立てて発注し、その結果を検証して次の発注につなげるという単品管理のサイクルを築いていった。このようなPOS使用のシステムはセブン-イレブンが、世界で初めてであり、POSデータを活用する先駆けとなった10。これにより商品を購買した客の性別、年齢やその時刻、天候などが商品ごとに記録されて分析され、「売れ筋商品」と「死に筋商品」の見極めをより速く正確にできるようになったのである。

 その後も、配送業者と本部間での情報伝達のリアルタイム化、店舗間ネットワークの強化、大規模データウェアハウス活用による情報分析の充実など次々と改善が図られてきている。また、メーカーとデータをリアルタイムで共有し、時間帯別にまで配慮したトータルマーチャンダイジングともいえる製造と販売の一体化や新商品開発にも利用するところとなった。

 セブン-イレブン、そしてコンビニ業界のPOSシステム導入は情報化時代の先端技術の利点を最も巧みに活用した一例であるといえよう。

(3)コンビニ産業の発展

 セブンーイレブンの豊洲第1号店開店から10年後の1984年、セブン-イレブンの店舗数は3867店にまで達した。この間にはコンビニ分野に多くの企業が参入し、各社の切磋琢磨により市場は拡大し、一大産業へと発展してきた。経済産業省の商業動態統計が、コンビニを特定して集計を開始し、公表したのは2002年であり、その年末の店舗数は全国合計3万2248店、売上高はサービスも含めて6兆492億円に上っている。さらに2012年には、店舗数4万7801店、売上高は9兆4772億円と百貨店を上回り、スーパーの12兆9000億円に迫りつつある。

 このようなコンビニ産業の発展の背景には、上記のように変化の激しい顧客ニーズへの対応を絶え間なく果敢に行ってきたことが挙げられよう。コンビニの商品に消費者が信頼を持つのは、食品などの賞味期限を短くし、鮮度の維持を図る一方、商品のライフサイクルを考え年間ほぼ7割の商品を入れ替え、売れ筋商品の欠品を少なくするなど単品ごとの商品管理を徹底しているからである11

 また、当初は深夜まであるいは早朝からの営業という顧客にとっての利用時間の便利さが大きな特長であったが(それは更に24時間営業へと移行していった)、店舗の増大とともにサービス分野における利便性をも提供するようになっていった。それはコピー機の設置によるサービスから始まり、続いて他のネットワークとの連携をいかした公共料金等の収納事務代行、24時間稼働の銀行ATMサービスの実施、宅配便の取次などへと拡大していった。こうした地域ニーズを取り組んだサービス業務が次々に展開されたことにより、消費者、住民等の生活の利便性をより高めるものとなった。

 さらに、コンビニは、消費者、住民の利便性だけでなく、24時間営業を続けているため、その明るさによる治安維持の効果や、緊急避難場所としての役割も増加してきている。

 コンビニ発祥の地は米国である。セブン-イレブンが、米サウスランド社から導入した商標、コンビニのコンセプト(安全性確保・品ぞろえ・クリーンネス)、フランチャイズ会計システムは、今なおセブン-イレブンの基本となっている12。しかし、ビジネスモデルの中枢は、前述のように、ほとんどが日本の実情に合わせて新たに創造され構築されてきた。

 海外においても日本のコンビニは、経済成長の著しいアジアでまず展開し、更に全世界に向けて店舗の設置を進めている。それは日本国内での競争によって培われたビジネスモデルを現地事情に適合させつつ展開し、地場のコンビニに対しても競争力を維持しようとの方針で進められている。セブン-イレブンジャパンは1991年に米国サウスランド社の株式を取得し、2005年には子会社とした。この結果、米国内の店舗数は8177店となっている。その他の国では、タイ、韓国、台湾などアジアでの出店が多いが、海外合計では3万5736店と国内1万5851店を大幅に上回る出店数となっている。ファミリーマートは1992年のタイ出店を皮切りに早い時期から海外事業に注力しており、韓国、台湾、中国を中心に1万2700店と国内9481店舗を上回っており、最近の増加数も海外が多い。ローソンも中国中心に448店舗となっている。

海外でのセブン-イレブン(米国)

海外でのセブン-イレブン(米国)

画像提供:セブン&アイ・ホールディングス

 

 (本文中の記載について)

  ※ 社名や商品名等は、各社の商標又は登録商標です。

  ※ 「株式会社」等を省略し統一しています。

  ※ 氏名は敬称を省略しています。

 


TOP