公益社団法人発明協会

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ウォシュレット®

発明技術開発の概要

 ウォシュレットの開発では、座り心地、洗浄角度、温度、水勢など、最適な洗浄条件を探るため、TOTO社内で実験が繰り返された。また、精緻な温度制御を実現するべく電子制御メカニズムが導入され、IC及び温度センサーを用いた自動温度調節機能が開発された。

 開発過程においては、まず個体差のある肛門の位置についてデータ収集が行われた。開発チームは社内に協力者を求め、便座に針金を張って、座った際、肛門が来た位置に印をつけることで、男女300人のデータを収集した。続いて、最適な湯温が検討された。開発チームはお湯の温度を0.1℃ずつ変化させながら、肛門にお湯を当てて調査を行った。さらに、動作条件や上限温度の設定を行うために、マイナス10℃の寒冷地や30℃の暑さの中で使えるかどうかの実験も実施した。これらの実験から、お湯の温度は38℃、便座の温度は36℃、乾燥用の温風は50℃が最適である、という結論を導き出した。

 次に、お湯をどのような角度で肛門に当てるべきか、検討が行われた。再び実験が開始され、固定ノズル式の場合は28度、今日広く用いられている変動ノズル式の場合は43度が最適であることが導き出された。これらの角度であれば、どのようなお尻でもお湯が届き、かつ、肛門に当たったお湯がノズルにかかりにくいことが確認された。

 さらに、お湯の温度を38℃に保ち続けるための技術的な検討も行われた。従来、温度制御のために用いられていたのは「バイメタルスイッチ」という方式であった。バイメタルスイッチの原理は、2種類の熱膨張係数が異なる金属板を貼りあわせ、圧延させて、円盤状や多角形に打ち抜き、皿状に成形したものを加熱し、任意の温度で瞬間的に反転動作を行い、冷却することで、当初とは異なる温度で反転復帰する、というものである。ウォシュレットでもこの原理を利用し、ピンと呼ばれるセラミック棒でバイメタルの反転をスイッチ部に伝え、接点の開閉を行うことで、温度調節を行おうとしたが、実際には温度を安定的に管理することができなかった。そこで、機械的な温度管理調節ではなく、ICを用いて温度管理を行う機構を導入することが提案された。そのためにはICを入手して、漏電しない回路を設計する必要があったが、「水に強い」回路の技術を有していた交通信号機のメーカーに協力を仰ぎ、「ハイブリッドIC」の技術導入が行われた。このハイブリッドICは、特殊な樹脂でICをコーティングする技術であり、このハイブリッドICを回路に実装し、プラスチック製の強化カバーで覆い、塩分を含む水をかけたところ、正常に動作することが確認できた。これにより、漏電の問題を解決することができた。

 温度管理の問題を解決したことで、1980年6月、ウォシュレットの発売が開始された。しかし、全国販売が開始された3カ月後、ウォシュレットの温度制御システムが故障し、温水が突然冷水になる不具合が判明した。故障原因はその年の暮れに判明した。ウォシュレットでは38℃の温度を維持するため、1日当たり1500回のオン・オフ信号がICからヒーターに伝えられる。その度に電熱線が収縮を繰り返したため、金属疲労が発生した結果、電熱線が破断したことが原因であった。そこで、TOTOではこうした事態に対応するため、新型ヒーターの開発が行われた。また、電熱線の材質をアルミからステレンスに変更し、断線を防ぐためより太いものに変更したところ、連続3000時間、38℃のお湯を出し続けられることが確認できた。

 その後、ウォシュレットには拡張機能としてビデ機能も追加された。このビデは女性器や肛門を洗浄するための器具であり、欧州では広く普及していた。ビデ機能の開発に当たっては、開発チームの家族や女性社員の協力を得て、洗浄に最適な角度や洗い心地を探る実験が行われた。実験を通じ、ビデの洗浄に最適な照射角度が53度であることが確認された。また、よりデリケートな箇所の洗浄を行うため、ノズル噴出口は5穴に設定された。こうしたノズル駆動方式は、他社の洗浄便座で採用されていた水圧式よりコストを要した。そこで、自動車の伸縮式ラジオアンテナに着想を得た開発者は、ノズルを伸縮式にすることで、肛門とビデ双方に対応させることにした。また、女性からの要望でノズル内のお湯は肛門用、ビデ用で別のルートを用いることにした。さらに、ウォシュレットの使用前、使用後とで、ノズルを自動的に洗浄する機能を備えた。

 

 (本文中の記載について)

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