公益社団法人発明協会

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ウォークマン®

発明技術開発の概要

(1)ステレオ・ミニジャックの採用とデファクトスタンダード化

 「TPS-L2」の開発では、前述のように歩きながら音楽を聴くというコンセプトが最も重視された。そのため技術的な信頼性が重視された。加えて、発売日までの時間も限られていた。そこで、基本的にはプレスマンに基づき、開発がなされていたという。

 しかしながら、その中で唯一開発されたデバイスは、ステレオ・ミニジャックであった12。当時、標準ジャックと呼ばれる径6.3mmの太さのジャックにはステレオタイプが存在していたものの、イヤホン用の径3.5mmのミニジャックにはステレオタイプのものが存在していなかった。これまでは、イヤホンは片耳で聞くものであったためである。しかしながら、ウォークマンでは持ち歩ける大きさの筐体で、ステレオヘッドホンを使用して音楽を聴くということが何よりも重要であった。ただし、筐体の大きさの問題でステレオタイプの標準ジャックをウォークマンに取り付けることはできなかった、そこで新たにステレオ・ミニジャックが開発されたのである。

 この開発自体は難しいものではなかったものの、その標準の普及に困難があったという。特筆すべき点は、「TPS-L2」発売に際して、ソニーがユーザーの便益を考え、業界全体にまで標準化させるべくEIAJ(日本電子機械工業会、現在のJEITA)へ働きかけ、このステレオ・ミニジャックを規格化させたことである。これによりヘッドホンステレオ市場への他社の参入が促され、その結果、市場は急速に拡大した。そして、ステレオ・ミニジャックは今でも市場におけるデファクトスタンダードとして、多くのポータブル音楽プレイヤーに採用されている。

(2)ウォークマンにおける小型化の追求

 ウォークマン1号機「TPS-L2」には、既存の技術が採用されていたが、その後の後継モデルでは無数の発明・改善が積み重ねられている。ソニーは初代ウォークマンが品切れ状態であった1979年9月より、次のウォークマンの企画を練り始めた。初代ウォークマンはプレスマンの技術が基になっており、次世代モデルにおいてウォークマンにふさわしいスタイルを確立する必要があった。

 開発の際には、初代の経験を踏まえて、様々な提案がなされた。例えば、カセットを入れるときに、最初からテープにヘッドが当たる状態になるように変更することをデザイナーが提案した。これによって小型化の追求が図られ、ウォークマンの高さはカセットケースサイズにそろえられたという。また、新素材のフレキシブル・ワイヤーを用いることで、操作ボタン類を右サイドから表面に付けることを可能にし、図2に示すようにスタイリングの追求もなされた。このような努力の結果生まれた新しいウォークマン「WM-2」によって、「ソニーのウォークマン」という商品のステータスが確立された13

図2 「音楽を連れて歩く」を体現した「WM-2」

図2 「音楽を連れて歩く」を体現した「WM-2」

画像提供:ソニー

 その後も、ソニーはウォークマンの小型化を追求していった。1983年に発売された「WM-20」においては、超薄型の専用ブラスレス・モータ―が開発され14、その結果、カセットケースと同じ大きさを達成した。また、1985年に登場した「WM-101」の開発では、小型化のために従来の単三電池に替えて、新たに充電式のガム型電池を開発し、その後も無数の発明・改良が積み重なってウォークマンは進化していった。そして、それがウォークマンの地位を不動のものにしていった。

図3 ガム型電池が採用された「WM-101」

図3 ガム型電池が採用された「WM-101」

画像提供:ソニー

 

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