公益社団法人発明協会

高度経済成長期

人工皮革

発明技術開発の概要

(1)クラリーノ

 一般に人工皮革の製造プロセスは、①極細繊維の製造、②繊維の三次元絡合不織布の製造、③ポリウレタンの付与、④表面仕上げ(染色、着色、型押、表面起毛など)、が一般的な工程である14。クラリーノも同様のプロセスから製造されるが、クラリーノの最も特徴的な技術は、極細繊維の製造技術にある15。そこで、以下では、極細繊維の製造工程における技術を概観する16

 天然皮革並の細い糸をひくために、これまで様々な創意工夫がなされてきたが、その代表例としては溶解型複合繊維が挙げられる。例えば、ポリエステルとポリエチレンを混合し紡糸すると、ポリエステルがポリエチレンに分散するが、この断面を見ると、海の中に複数の島が浮いているように見える。これを海島型繊維とも呼ぶが、この繊維を紡糸した後、溶剤によりポリエチレン(海の部分)を抽出除去することにより、極細繊維の束を得ることが可能である。混合紡糸の場合、使用するポリマーの組合せや分子量、紡糸条件などを設定することにより、目的に合わせて島の部分の繊維径や集束繊維本数の異なる多様な特殊繊維を得ることが可能となる。そして、その繊維の一成分を溶剤で抽出除去することで得られる繊維を活用して、天然皮革代替素材としての性能や風合い、外観などを再現することが可能になった。開発の経緯については、海島型繊維の島成分を抽出除去することで得られる特殊多孔繊維がまず開発され、これがクラリーノに用いられた。その後、海島型繊維の海成分を抽出除去することで得られる特殊極細繊維が開発され、高強度化、銀付のソフト化、スエードライクな素材の要求に対応した各種素材が販売されることとなった。その後もさらなる改良を続け、極めて高機能な人工皮革を生産し続けるとともに、現在では環境対応型の人工皮革の開発も展開している。

代表的な海島型極細繊維の製造技術

代表的な海島型極細繊維の製造技術

画像提供:クラレ

銀付天皮革(カーフ)銀付人工皮革(当社品)の構造比較

銀付天皮革(カーフ)銀付人工皮革(当社品)の構造比較

画像提供:クラレ

(2)エクセーヌ

 エクセーヌの独創性は、それまでの表革タイプの人工皮革を対象とした発想を根本から変え、世界で初めて超極細繊維の特性をいかし、本格的なスエード調の人工皮革を開発して、天然のスエードを凌駕したものを完成させたことに求められる17。この人工皮革の製法の基本は、①特殊繊維を作る技術、②特殊繊維の立体的絡合シートを作る技術、③超極細繊維を発生させる(繊維束化)技術、④内部結合点を作る(ポリウレタンのようなものを含浸させる)技術、⑤表面の繊維束を解除して微細な立毛を発生させる技術、⑥超極細繊維シートの染色と仕上げを行う技術、の組合せから成る18。また、この製品の中心技術も繊維にあるため、以下では、この超極細繊維について概観する19、20

 エクセーヌは単に表面に立毛を有するスエード調皮革様素材であるだけでなく、天然皮革では実現できない機能性を有するものである。天然皮革には、品質にばらつきがある、重い、縫製しづらいなど、多くの欠点があった。こうした欠点を新しい合成繊維で克服するためには、人工皮革の表面の構造設計が重要であるが、それには超極細繊維の技術が必須であった。そこで超極細繊維に要求される特徴から、得られる超極細繊維の太さや数などの選択可能性と将来性、技術の広がりなどを考慮した結果、これまでに例のない「高分子相互配列体繊維」が導き出された。これを可能にしたのは、「超極細繊維の成分が非常に細くなるとそのままでは紡糸できないため、他のポリマーで包んで見かけ上は太い繊維として紡糸を容易にし、後に他のポリマーを除去して超極細繊維を残す」という方法である。この繊維は金太郎飴のように、一本の繊維の中に超極細繊維を繊維方向に埋め込んだ構造を持つ。繊維断面部分において一成分(島)が他成分(海)中に高度に分配され、繊維軸方向には均一に連続している。この繊維から海成分を除去し、配置した通りの数と断面を持ち、設定どおりの太さの均一な極細繊維の束を得る。この繊維はスエード調人工皮革の構造を作るのに最適であった。

 エクセーヌは、他の繊維メーカーを巻き込んだ超極細繊維研究開発活動をもたらしたこと、高付加価値製品づくりの契機となったこと、合繊業界で次々に極細繊維の応用製品が生まれたこと、繊維で先進国に進出した最初の例となったことなど、各分野に多大な影響を与えた製品となった。

 

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