公益社団法人発明協会

高度経済成長期

リンゴ「ふじ」

概要

 リンゴ「ふじ」は、青森県藤崎町にあった農林省園芸試験場東北支場(現 農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所リンゴ研究領域、盛岡市)の新津宏、村元政雄、定盛昌助、吉田義雄、土屋七郎等により育種され、1962年に「ふじ」と命名され、「りんご農林1号」として農林認定品種(旧:命名登録品種)に登録されたものである。4656個体の交雑実生から選抜された個体は、「国光」のめしべと「デリシャス」の花粉の組合せによるものの一つで、当初から甘味が強く、濃厚な素晴らしい食味を有し、貯蔵性の優れたものであった。しかし、色付きが悪く、果実が割れるなどの問題も抱えていた。そこで、新品種の発表直後から、斉藤昌美ら精農家(リンゴ栽培を研究し、先駆的な成果を挙げている生産者)等によって、性能を引き出すための試作を通じて、栽培方法等の開発が進められた。その結果、食味に優れ、色付きもよく、流通性にも優れたものとなった。

 1963年のバナナの輸入自由化やみかん・苺の生産拡大により、それまでリンゴの主流であった「国光」「紅玉」の価格が大暴落し、生産者からは新しい品種の出現が期待されるようになった。この機に、当初から試作を行っていた精農家等による献身的な努力と「ふじ」への転換の積極的な指導とにより、「ふじ」は、瞬く間に「国光」「紅玉」を主役の座から降ろし、生産過剰により価格が暴落した「デリシャス系」をも凌駕して、名実ともに日本を代表するリンゴとなった。「ふじ」は、リンゴ生産者の収益性の改善に貢献し、我が国リンゴ産業の救世主となった

 現在、「ふじ」の国内出荷量は38.5万トン(2012年産)で、全出荷量の54.3%を占め2、その一部は台湾、香港、タイ等、海外へも輸出されている。

 我が国で誕生した「ふじ」は、国内にとどまらず、中国、米国、フランス、イタリア、ブラジル、チリ、アルゼンチン等、世界中で生産されている。特に、世界最大のリンゴ生産国である中国では、約1000万トンが生産されており、世界全体の生産量は1200万トンを超えると推定されている。これはリンゴ全体の生産量の20%を超えるものであり、世界で最も多く生産されているリンゴとなった。

 「ふじ」は我が国で誕生し、世界ブランド化した最初のリンゴである。

図1 農業・食品産業技術総合研究機構リンゴ研究領域にある「ふじ」の原木

図1 農業・食品産業技術総合研究機構リンゴ研究領域にある「ふじ」の原木

*世界中で栽培されている「ふじ」は、すべてこの原木の枝を接木して増殖されたものである。

写真提供:農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所

図2 世界のリンゴ生産量の品種別占有率(2012年、中国を除く)

図2 世界のリンゴ生産量の品種別占有率(2012年、中国を除く)

* 中国は世界のリンゴ生産量の40.7%を占めるリンゴ大国であるが、その53.2%が「ふじ」である。これを加えて試算する「ふじ」の世界の占有率は21%と推定され、世界最大のものとされている。

*"The World Apple Report"紙(2013年4月 号) 掲 載の世界40か国の調査データ


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