安定成長期
スタチン
発明技術開発の概要
細胞内でコレステロールは多くの段階を経て生合成されるが、生合成の速度を決定する律速酵素は、HMG-CoA をメバロン酸 (mevalonic acid)に転換するHMG-CoA 還元酵素である。遠藤により発見されたコンパクチンは、化学構造上メバロン酸と類似した部分を持ち、HMG-CoA 還元酵素の作用を競合的に阻害し、コレステロール生合成を効果的に低下させる。コレステロールの生合成が低下すると、細胞内のコレステロール量を一定に保つフィードバック制御が働き、LDL 受容体の発現が上昇し、血液からのLDL コレステロールの取り込みを促進して低下を補う。LDL取り込み能力の最も高いのが肝臓であり、取り込まれたコレステロールは肝臓で胆汁酸に転換され胆汁中へと排出処理される。その結果、各組織でのコレステロールの水準は正常な状態に維持されたまま、血中のLDL コレステロールが選択的に減少する。HMG-CoA還元酵素の阻害薬は、このように革新的なメカニズムに基づき、高LDLコレステロール血症への高い治療効果を発揮し、安全性も高いことから、コンパクチンを基本骨格とする様々なスタチンが天然物探索や化学合成により世界中で開発され、医薬品市場を席巻することとなった。