安定成長期
家庭用カムコーダ
発明技術開発の概要
(1)高密度磁気記録技術
小型化を達成するためには記録密度を上げる必要があり、8mmビデオでは、従来用いられていた酸化鉄塗布型テープよりも保磁力と残留磁束密度が大きいメタル磁性材を用いたメタル塗布型テープ及び蒸着テープの採用が不可欠であった。酸化鉄塗布型テープは耐久性や安定性もよく、オーディオ記録の初期から長らく使われてきたが、メタル塗布型テープでは磁性粉にメタル磁性粉を用いており、このメタル磁性粉は超微粒子化が可能で磁気特性はよかったが、金属の超微粒子であるため、発火や錆や凝集性などの課題もあり、実用化には大きな壁があった。超微粒子メタル磁性粉(親水性)と結合剤(親油性)からなる磁性塗料を均一に分散させる高い分散技術、その磁性塗料をベースフィルム上に均一に塗布する塗布技術、そして、テープそのものの平滑性を改善する技術等の地道な研究と改良により、実用化を果たした。
また、これらの高い保磁力を有する磁気記録媒体を磁化するためには強力な磁界が必要であり、高密度記録するため磁気ヘッドのギャップを狭くするとヘッドが磁気飽和してしまうという課題もあった。磁気ヘッドの材料は従来フェライト(酸化物)が用いられているが、8mmビデオではギャップ近傍のみを高飽和磁束密度を有するアモルファス(非晶質)磁性合金やセンダストスパッタ膜で構成したフェライト複合磁気ヘッドが開発、実用化された。メタル塗布型テープに対し、蒸着テープは更にハードルが高かった。蒸着テープはメタル塗布型テープより更によい性能が期待されるが、蒸着テープは真空中で磁性金属を電子ビーム加熱して蒸着させる必要があり、大気中で製造できるメタル塗布型テープに比較して量産性、コストに難があった。また、蒸着膜がはがれやすいという耐久性の問題もあった。現在ではこれらの課題も解決されて商品化され、更なる小型化、デジタル化に供している。
(2)CCD
テープとヘッドが磁気記録装置の性能を決めるコンポーネントとすれば、撮像素子はカメラの性能を決める要である。長らく映像の撮像にはビジコンやトリニコンと呼ばれる真空管の撮像管が使われてきた。しかし、小型化には限界があり、真空管という性質上、高電圧を必要とし、衝撃に弱く、手軽に使えるカムコーダには大きな壁であった。それを改革したのが、半導体撮像素子CCDである。CCDは米国ベル研究所で発明された電荷転送素子であるが、それをイメージセンサーに応用したのである。この将来性を見抜き開発を指示したのがソニーの当時社長であった岩間であった。岩間の指示を受けて実用化したのが越智成之(以下「越智」と呼ぶ)である。越智は当初19万画素のCCDを開発していたが、それでは8mmビデオの商品化に不足であることから25万画素の目標を与えられ、さらに保険をかけて用意されていた撮像管でのカメラ設計を中止し、CCDに一本化されたことで奮起し、25万画素のCCDを完成し、8mmビデオの商品化を達成した。画素を微細化すると配線パターンの比率が上昇し感度が低下する。さらに微細化すると結晶欠陥やほこりが問題となる。これらを半導体構造の工夫と結晶製造技術の改良で克服した。最近ではCMOS技術が進歩し、CCD撮像素子はCMOS撮像素子に置き換えられつつある。
(3)手ぶれ補正技術
カムコーダが小型化されるにつれ、撮影時の手ぶれが問題になってきた。三脚に固定して撮影すれば問題ないが、手持ちで手軽に撮影しようとすると大きな障害となる。ビデオカメラにはズームレンズが装備されており、アップしたときの手ぶれは特に気になる。手ぶれ補正方式には、大きく分けて光学的手ぶれ補正方式、電子式手ぶれ補正方式があり、さらに光学的手ぶれ補正方式には、レンズの一部を動かす方式やレンズブロック全体を動かす方式等、いくつかの方式が開発されている。また手ぶれを検出する方式もジャイロを使ったものや画像から検知するもの等、各種考えられており、小型化、画質(補正能力)、コスト等に応じて搭載されている。
手ぶれ補正機能は、松下電器産業が1988年に世界で初めて民生用S-VHSビデオカメラ「PV-460」に搭載した。
(4)高密度実装技術
カムコーダの小型化に高密度実装技術は欠かせない。CCD-TR55には民生用AV機器として初めて4層ガラスエポキシ基板が採用され、表面実装部品が多用された。ICも0.5mmピッチのVQFP(Very-small Quad Flat Package)が使われ、複合チップ抵抗や複合トランジスタ・ダイオードも使われた。コンデンサー、抵抗のみならず、コネクター、フィルター、クリスタルといった異形部品と称されるものの表面実装化も行われた。基板にこれらの表面実装部品を高密度にはんだ付けするため、リフロー炉が改良され、低温クリームはんだ等が開発された。
(5)メカ・きょう体等その他の工夫
VHS-Cの小型カセットとそれをVHSカセットに組み込むカセットアダプターの開発は、VHS方式のフォーマットを維持したままカセット及びカムコーダの小型化を実現した。小型レンズ機構の開発、液晶ディスプレイの開口方法など小型化には幾多の機構技術が採用されている。マイクをカムコーダの内部に実装すると、カムコーダのメカノイズを拾ってしまうという問題があったが、複数のマイクを組み合わせてメカノイズを電気的にキャンセルすることでこれを解決し、マイク部分の突起をなくすというような工夫も加えられた。