安定成長期
直接衛星放送サービス
概要
2016年現在、受信世帯が2000万を超えて様々な放送サービスを提供している我が国の直接衛星放送の歴史は、1965年にNHKが全国への効率的な放送手段として人工衛星利用の研究・開発方針を発表し、小形ながら独自に衛星の製作・試験まで行ったことで始まった。
一方、この方針発表前年の1964年にNHKが東京オリンピックを電波研究所(RRL、現NICT)、NTT、KDD(現KDDI)の協力で通信衛星経由で米国に中継したことから、通信手段としての衛星利用が広く注目されるようになった。そして日本の宇宙開発計画は国の施策として実施することとなり、1969年に宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)が発足して我が国の衛星開発と打ち上げを行うこととなった。
当時、衛星放送用12GHz帯での家庭用に適した安価、高性能な受信機はまだ存在していなかった。NHKは独自の研究・開発により受信機実用化のめどをつけ、また、衛星からの電波の正確な伝搬特性なども把握して計画を具体化していった。そして、1978年、設計寿命3年の実験用放送衛星(BSE、後にBSに改称)を打ち上げた。BSは2年で搭載高出力増幅器(TWTA)3台すべてが故障し放送実験は途中終了となったが、得られた実験結果は不具合の原因究明結果とともに後の実用放送衛星(BS-2a/2b)設計に反映された。
1984年、日本は世界初の実用放送衛星BS-2aを打ち上げた。初期試験中にTWTA3台中2台が故障し、1チャンネル(ch)での試験放送となったが、故障の原因解明を踏まえ、1986年には当初予定より半年遅れのBS-2bも打ち上げて2chでの試験放送とし、1989年に本放送を開始した。
一方、1977年の世界無線通信主管庁会議(WARC、現WRC)後、米国、欧州でも直接衛星放送計画が発表され、事業会社なども設立されたが、米国では途中撤退、欧州においてもBS-2a打ち上げの3~5年後に次々と打ち上げられた放送衛星も、相次ぐ不具合などで継続しなかった。
日本では、その後の次世代実用放送衛星(BS-3a/3b)等の打ち上げも様々な要因から当初予定より延期や、既存衛星の使用延長など困難に直面したが、1991年にBS-3bを打ち上げて高精細度テレビジョン(ハイビジョン<HV>)放送の試験放送も開始するまでになった。
NHK独自の放送衛星研究から世界初の実用放送衛星BS-2aによる直接衛星放送サービス開始までの研究、開発の技術的功績は、RRL、NASDA、通信・放送衛星機構(TSCJ、現NICT)、東芝、GE社(衛星部門は現ロッキードマーチン(LM)社)、米航空宇宙局(NASA)とともに2011年に IEEEマイルストーンに認定された。
衛星放送の成功により、難視聴地域でのテレビの受像が可能になる一方、国際的なリアルタイムでの中継放送が可能になるなど画像放送に革命的な機能をもたらすこととなった。