安定成長期
ネオジム磁石
発明技術開発の概要
永久磁石の開発には、①磁石に適した希土類金属と遷移金属の化合物の発明と、②セル状構造を見つけるための合金組成と製法の発明が必要である。ネオジム磁石も他の永久磁石と同じく、この過程をたどって開発されるに至った。
(1)化合物の発明
佐川は、1978年1月31日に浜野の講演で鉄を主体とする磁石の可能性に気付き、即座に種々の化合物の合成を開始した。具体的には、種々の合金をアーク溶解炉に入れて溶かし、様々な組成の合金を作製した。この時、佐川は、鉄と希土類金属から成る合金に添加する元素として原子半径の小さい炭素やホウ素を選択した。そして、サマリウムやネオジムをはじめとする様々な希土類金属を試した。こうして作製した合金を振動試料型磁力計やX線回析装置を用いて評価し、1978年中にネオジム・鉄・ホウ素の組み合わせに行き着いた。
ただし、ネオジム磁石が高い最大磁気エネルギー積を有する理由は、当時佐川が考えていた「鉄原子間距離の短縮化による磁気的性質の改善」によるものではないことが明らかになっている。ネオジム磁石完成後の研究からは、ネオジム磁石にホウ素を添加しても鉄原子間の距離はあまり変わらず、むしろ鉄電子とホウ素電子の化学的相互作用によって磁気的性質の改善が生じていることが明らかにされた8。このように、佐川らが思い描いていた仮説が当たっていたわけではない。それでも、佐川が鉄を主体とする磁石の可能性を信じ、数多くの合金を検討したからこそ、ネオジム・鉄・ボロンという組み合わせが発明されたのであった。
(2)合金組成と製法の発明
三つの元素、ネオジム・鉄・ボロンの単結晶化と並んで磁石としての高磁力化、高機能化を実現させたのは、合成組成と製造方法の徹底した研究開発である。単なる結晶では保磁力の低さから磁石にはならないことから、佐川は化合物の組成を更に細かく検討するだけでなく、製造条件についてもあらゆるパラメーター(例えば合金粉末の粒径や熱処理条件)を変化させて磁石を作製し、目的の磁石を探し求めた。そしてネオジム焼結磁石にたどり着いた。なお、佐川が作製したネオジム焼結磁石は次のようになっている。
ネオジム、鉄、及びホウ素の化合物を粉末状にし、粉末を型の中で加圧成形した後に熱処理を加えて粉体粒子間を結合させ(焼結)、構造材料とする方式。加圧成形だけでは材料としての強度が不足しがちになるため、熱処理が必要となる。ただし、加圧成形によって得られた物質の形状は焼結後も良好に再現されるため、ネオジム焼結磁石の場合、加圧成形の時点で定めた加工寸法を維持したまま磁石を製造することができる。この特長から、ネオジム焼結磁石は機械部品に向いているとされる。