安定成長期
カーナビゲーションシステム
概要
モータリゼーションの進展により、我が国の乗用車保有台数は1980年には2300万台、運転免許保有者数も2800万人を超えるものとなった1。 不案内な土地での運転は、ドライバーの不安の要因となり、交通事故の発生や交通集中による渋滞を引き起こす原因となるだけでなく、燃料の浪費にもつながる。カーナビゲーションシステム(以下「カーナビ」と呼ぶ)は、高度な測位技術、経路誘導技術、位置情報利用技術を備え、ドライバーに目的地への最適なルートを案内するもので、現在では我が国の乗用車の7割程度に搭載されている2。特に、カーナビの主流となっている「地図型ナビゲーションシステム」は、世界に先駆けて我が国で開発され、全世界に普及したものである。
1981年8月、本田技研工業・本田技術研究所(以下「ホンダ」と呼ぶ)は、新たに開発した「エレクトロ・ジャイロケータ」を発表し、同社の「アコード」及び「ビガー」のオプションとして同年12月に発売した。「エレクトロ・ジャイロケータ」は、それまでの「目的地の方向」と「残りの距離」を示すだけのカーナビを大きく変え、「車両の現在位置」「走行軌跡」及び「これから進むべき方向」を地図上に可視的に表示する最初の地図型ナビゲ―ションシステムであった。ホンダはこのシステムの測位のために、独自に車載用ガスレートセンサ3を開発し、そこから得られた刻々の信号をマイクロコンピュータで計算し、それを二次元座標テーブルで画像処理した走行軌跡を表示画面として、CRT上に表示するシステムを実現した4。ホンダはこの情報をCRT上にセットした透明の専用地図シートに表示するものとしたが(図1参照)、この製造過程でデジタル・マップの必要性が認識されるものとなった。
その後、大量の情報をコンパクトに記録できるCD-ROMの実用化が始まったことから、このCD-ROMを用いてデジタル・マップを構築することが自動車メーカ、電装メーカ等により取り組まれた。1987年にトヨタ自動車(以下「トヨタ」と呼ぶ)とデンソーが開発した「CD-ROMナビゲーションシステム」は、世界で最初のデジタル・マップデータを用いたもので、「クラウン」に搭載された。
カーナビの測位技術は、米国政府によりGPS5の利用が一般に可能となったことから更なる進化を遂げた。1990年に三菱電機とマツダは、世界で初めてのGPS方式「カーコミュニケーションシステム」(以下、「CCS」と呼ぶ)を開発し、これを搭載した「ユーノスコスモ」が市場に登場した。CCSは、GPSに加え、車載センサによる測位、マップマッチングによる誤差修正機能を備えたハイブリッド航法を採用したカーナビであった。カーナビは、市販型の登場によりさらに身近なものとなった。同じ年にパイオニアが発売した「カロッツェリアAVIC-1」は、市販型としては世界初のGPS方式カーナビであり、カーナビの一般への普及に大きく貢献するものとなった。
カーナビはその後のVICSサービス6の開始もあって、順調に出荷台数を増加し、2000年の年間出荷台数は170万台、2010年には526万台に達した7。また、欧州をはじめとして海外での利用も拡大し、近年では中国、韓国、インド等のアジア地域においても普及が加速している8。
図1 本田技研工業「エレクトロ・ジャイロケータ」
画像提供:本田技研工業