安定成長期
カーナビゲーションシステム
発明技術開発の概要
航空機、船舶の分野で不可欠の航法(navigation)という概念を自動車の世界に持ち込み、見知らぬ土地で地図を片手にした運転の不便さ、非効率性、さらには危険性を解消した。世界で初めてホンダが開発した「エレクトロ・ジャイロケータ」システムは、GPS、デジタル地図や大容量の記録装置が十分でなかった時代に、今日の地図型カーナビに必要な機能を備えるものであった。
開発にあたって、ホンダは以下の6つの開発目標24を定め、その開発を進めた。
・「電波施設など外部施設を新たに設置する必要がないこと」
・「地磁気のような不安定な情報をベースにしないものであること」
・「自動車に搭載可能なレベルに小型軽量で安価であること」
・「自動車用品として操作しやすく取扱性のよいものであること」
・「安全性の高い配置・構造であること」
・「機器の異常を運転者にいち早く知らせる機能を備えていること」
開発されたシステムは、ガスレートジャイロセンサと距離センサを用い、自動車の移動方向と移動距離を検出し、刻々の変化をマイクロコンピュータで瞬時に計算することで移動量を求め、これを透明な地図シートをセットしたCRTに走行記録として表示するものである25。
方向センサとしてはそれまで広く利用されていた地磁気センサが有する欠点、すなわちビル街、トンネル内での地磁気の乱れなど外部環境による影響を避けることができる、ガスレートジャイロが採用された。これは、ノズルから噴射させた均一なヘリウムガスを2本の熱線に当てるもので、車が方向を変えると熱線に温度差が生まれ、それを電気信号としてコンピュータが検出する仕組みである。ガスレートジャイロの高い精度を引き出すには、2本の熱線の温度をいかに均一に保つかが重要となるが、センサ本体の主要部分を一体として密閉度を高めたり、ガスの恒温性を確保すべく二重恒温槽構造したりするなど様々な工夫により克服した26。
16ビットのマイクロプロセッサを搭載した航法コンピュータを備え、表示装置としては6インチのCRTが採用された。さらに、透明な専用地図シートをCRT上に設置し、出発点、目的地などをマーキングして走行軌跡を表示することとした。自車位置が地図表示範囲を外れた場合、地図を入れ替える必要があり、目的地への誘導案内機能もないが、現在の地図型カーナビの原型として、社会に大きなインパクトをもたらした。