公益社団法人発明協会

安定成長期

インバーターエアコン

概要

 1982年に東京芝浦電気(現「東芝キヤリア」、以下「東芝」と呼ぶ)が発売した家庭用インバーターエアコンRAS-225PKHVは、空気調和機の心臓部である圧縮機に印加する電源周波数を変えることによりその回転数を制御し、必要負荷に追随して冷房・冷房能力を制御することを実現した世界で初めての家庭用エアコンである。

 1970年代、二度にわたって世界を襲った石油危機は、あらゆる分野で省エネを求めた。民生家庭部門のエネルギー消費量の3割1を占めていた冷房・暖房システムについてもその例外ではなかった。本来、ヒートポンプシステムは、電気を直接熱源として使用しないことからエネルギー利用効率が極めて高い冷暖房システムであるが、温度調整が電源のオン/オフ運転のみで行われることからエネルギーロスが大きく、連続した能力制御が求められていた。そこでインバーター装置(周波数変換装置)の利用も提案されていたが、当時のインバーターは高価であり、サイズも大きかったことから、そのままエアコンに搭載することは不可能であった。この課題に取り組んだ東芝は、大電力トランジスタとマイコン制御による「正弦波近似パルス幅変調方式」を採用し、まず、業務用エアコンのインバーター化を実現した。しかしながら、業務用の成功をもとに、家庭用インバーターエアコンを実現するためには、インバーター装置のコストとサイズについて更なる改善が必要であった。また、それまで固定されていたコンプレッサーの回転数を頻繁に変えることによる冷凍サイクル自体への影響も解決が必要であった。東芝の研究者たちは、新たに「倍電圧整流方式」や「ジャイアントトランジスタ」を開発し、これらの問題をひとつずつ解決していった。このようにして開発されたインバーター装置は、業務用のものの3分の1にまで小型化され、コストも5分の2に引き下げられた。最後まで残されていた冷凍サイクルの開発も試作と性能確認の繰り返しにより克服され、ここに世界で初めての家庭用インバーターエアコンが誕生した2

 現在、我が国で出荷されるエアコンのほとんどがインバータ化されたものとみられている。インバーターエアコンの登場は、エアコン市場そのものの姿も大きく変えた。それまで主流であった冷房専用型エアコンは冷暖房兼用型エアコンにその地位を奪われ、かつほとんどの家庭へ普及した3。インバーターエアコンのエネルギー効率は海外でも高く評価されるものとなり、我が国に続いて欧州、豪州、アジア新興国市場においても急速に普及した。2016年の世界エアコン市場のインバーター化率は60%を超えるともみられている4

 我が国で誕生し、普及したインバーターエアコンは、地球規模のエネルギー問題、環境問題に貢献したイノベーションである。

世界初のインバーターエアコン

世界初のインバーターエアコン

画像提供:東芝


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