公益社団法人発明協会

安定成長期

インバーターエアコン

発明技術開発の概要

 インバーター装置が組み込まれる以前のエアコンは、圧縮機のモーター回転数が一定であり、高速回転により大きなトルクを得ることや、低速回転にして省エネルギーとすることが不可能であった。インバーターエアコンの登場は、運転開始には高速回転により素早く設定温度にし、その後は低速回転により設定温度を維持するとともに、電力の消費を大幅に改善するものであった。

 インバーターによるモーター速度制御方式としては、インバーターの電流流通率を変えて出力電圧を制御するパルス幅変調方式(PWM:Pulse Width Modulation)と、電圧そのものを変えるパルス電圧幅波形制御方式(PAM:Pulse Amplitude Modulation)が用いられている16。東芝が世界に先駆けて開発したインバーターエアコンに採用したのは、「正弦波近似パルス幅変調方式」のインバーターであった。PWM方式は、半導体を使ってパルス列のオン・オフの一定周期を作り、オンの時間幅を変化させる電力を制御するものである17。コンバータ部にリアクタとコンデンサからなるパッシブフィルタを配置し、力率の改善と高調波の制御を行い、整流回路と組み合わせたコンデンサ分圧の倍電圧回路により、交流(AC100 V)を直流(DC240 V) に変換し、インバーター部に供給する。この直流電圧(DC240 V)をインバーター部で周波数変換すると共に、電流流通率を変えることによりモーターの回転数を変えるものである。オン・オフ状態における半導体の損失が最も少ないことを利用したものである。また、オンの時間幅を周期的に変化させることにより、モーター駆動に最適な正弦波の交流電圧を作り、矩形波駆動に比べ効率を改善するとともに、低振動、低騒音を実現した。

 圧縮機モーターの回転数は、モーターに加える電圧により決められるが、一定の電圧でコントロールしているPWM方式では、コントロールする幅が小さく、省エネとハイパワーの両立が困難であった。日立製作所により世界に先駆けてエアコンに搭載されたPAM方式は、アクティブフィルターでコンバータを構成し、スイッチング素子を制御することによって、インバータ部に供給する直流電圧そのものを変化させ、モーターへの出力電圧を制御する。PAM方式では「ブラシレスDCモーター」と呼ばれる直流モーターが採用され、始動時等のパワーが求められる場合には、電圧を390Vに上げて高速を実現する一方、省エネルギーが求められる場合には電圧を140Vに下げ、ロスを抑えた低速回転を可能とした。これにより、電源(AC100 V)の電流(AC100 V)の電流波形を正弦波状に制御している。PAM方式の採用により、力率をPWMに比べ10%向上させ、99%にまで引き上げるとともに、モーター効率・インバーターを含めた総合効率を向上し、モーターへの印加電圧増大によりトルクを大きくし、回転数増により能力を強め、低外気温時の暖房能力を大幅に向上した18


TOP