安定成長期
イベルメクチン
概要
イベルメクチンは、日本の大村智博士が微生物から発見、抽出した「エバーメクチン」をもとに、米国の製薬会社メルクによって開発された寄生虫駆除薬である。WHO(世界保健機関)によって「顧みられない熱帯病」に指定されてきたオンコセルカ症や象皮病などリンパ系フィラリア症等、寄生虫による感染症に劇的な効果を上げ、これらの病気に苦しむアフリカなど世界中の多くの国・地域の人々を救ってきた。
1973年、北里研究所の研究者であった大村は、留学先で知り合ったメルク社との間で、研究開発資金の提供を受ける一方、その成果である将来の特許は同社が排他的に保持する権利を認め、他方で売上に対する世界の一般的な特許ロイヤルティー・レートでの特許使用料の支払いを受ける契約を結んだ。
大村は、畜産動物の消化器官内の線虫駆除の薬品開発は、世界の多くの製薬企業が取り組んでいなかったことから、あえてこれに挑戦した。その開発は土壌中に存在する膨大な微生物それぞれが作り出す化学物質の機能を確認し、薬剤としての可能性を探る地道な、しかし、チームワークを駆使したスクリーニング等の連続作業であった。
1974年、大村は静岡県川奈で採取した土から、後のイベルメクチンの素となる放線菌を発見し、それが生成する化学物質の有効性に注目した。メルクとの共同研究を経て、1979年、これが求めていた抗寄生虫作用の有効性があることを学会で発表した。そして、メルクによって商品化され、発売されたイベルメクチンは、畜産物の線虫駆除に絶大な効果を発揮するのみならず、人間に対しても上述の深刻な寄生虫駆除に画期的な効果をもつ薬剤となった。
イベルメクチンは巨額のロイヤリティーフィー収入をもたらしたが、大村はその大半を自らの研究費の独立採算化とともに、研究所の役員、所長として赤字財政により窮迫した北里研究所の強化に充当した。そして、組織改革を実施するとともに理想とする第2病院の建設など大学並びに研究所を経営者として一体化し再建した。産学連携の理想的な姿といえる。
2015年、ノーベル生理学・医学賞が「線虫感染症の新しい治療法の発見」の貢献者として、大村と元メルク社のウイリアム・キャンベル博士に授与された。
製品「メクチザン」
画像提供:北里大学 大村智博士