安定成長期
オーロラビジョン
発明技術開発の概要
ドジャースタジアムのオーロラビジョンは、新技術により新たな市場を創出し、その後の継続的なブレークスルーを通じて市場の成長・成熟に貢献した。ここでは技術の概要を紹介する。
(1)光源管
オーロラビジョンのキーデバイスはCRTの光源管である。直径約28mmのガラス管の一方を丸めて蛍光体を塗布し、対面に電子銃を配置した。一般のCRTが電子を集束させて蛍光面を走査するのに対し、蛍光面に電子を均一に照射して高い発光効率と実用的寿命8000hrを得ている。初号機の光源管は着色ガラスを使用したが、希土類元素を加えて特定波長を吸収する新ガラスへと改良され、同等のコントラストとばらつきが少なく安定した量産技術を確立した。オーロラビジョンは、屋外の過酷な環境で使用され、潜在的課題が顕在化しやすい。特に蛍光面に10kVの高電圧を印加する光源管は、陽極と他の電極との耐電圧に課題があったが、工程改善によりガラス表面の微量残留物を除去することで優れた絶縁性能と高い信頼性を達成し、世界市場に進出できた。新ガラスは、テレビ用あるいはモニター用のブラウン管に適用されて画質改善に貢献し、工程改善はブラウン管の歩留まり向上に貢献した。
(2)光源管及び画像の制御
オーロラビジョンは、光源管の電流を調整することで輝度のばらつきを補正して均一な画面とし、さらに、点灯時間幅を制御して画像の濃淡(階調)を表現した。特に優れた応答性ゆえ、PWM(Pulse Width Modulation)の単位時間幅を細かく制御することで、夜間から直射日光下までの様々な照度環境において階調表現を乱すことなく画面の輝度を調整した。コントローラーは、映像と文字・グラフィック画像のそれぞれに対応する画像メモリーを設け、映像にコンピューターで作り出されるデジタル画像を重ねて表示するメモリー構成のハードウエアを開発することで魅力的なファンサービスを表現した。
(3) 新たなイノベーション
オーロラビジョンは、近距離あるいは高輝度のニーズに対応し、直径20mm、28mm、35mmの光源管が開発された。光源管の高密度配列は、解像度やコストの限界ゆえ近距離用の市場は限定的であり、新たなイノベーションとしてCRTの原理と蛍光表示管の製造技術に基づく新発光素子FMCRTが開発された。オーロラビジョンに初めて適用されたQuad配列は、画素を構成する4素子をそれぞれの配置に対応して制御することで隣接画素が互いに重複して見かけの画素数が増加し、解像度が高くなる。FMCRTに適用すると、3色が適度に分離しており、電極構造の簡素化と表示のコントラスト改善に役立った。電極構造は、線状カソードの背面に電極を印刷することで金属部品を大幅に削減し、発光素子の信頼性を改善した。各画素は、カラーフィルターにより蛍光体の外光反射を抑制し、発光色の輝度をレンズで補うことでコントラストを改善した。LEDの適用では、画面の大型化・高解像度化に対応して色変換や解像度変換などの高画質化技術を開発し、超高精細画像を実現した。ハイビジョンは2000年に適用され、最近はハイビジョンを超える高解像度スクリーンの表示の制御技術がギネス級超大型スクリーンにも適用されている。
大型表示装置は、液晶表示モジュールを配列した大型表示装置4や有機LEDを配列した大型表示装置5などの開発事例もあるが、技術の起源はいずれも1980年のドジャースタジアムにある。
図3 光源管のQuad配列を適用した表示ユニット(左)とFMCRT(右:レンズ&フィルター装着)