公益社団法人発明協会

安定成長期

G 3ファクシミリ

概要

 ファクシミリは電話の発明より33年早い1843年に発明されながら、電話網で高速電送するファクシミリの実用化は、半導体技術などのエレクトロニクス技術が進歩・普及する1970年代まで待つ必要があった。

 しかし、1968年及び1976年にCCITT(Comite Consultatif International Telegraphique et Telephonique、国際電信電話諮問委員会、現ITU-T)で国際標準化されたグループ1型(以下「G1」と呼ぶ)ファクシミリ及びG2ファクシミリでは、なお、おのおのアナログ変復調技術を使いA4判の白黒原稿ではそれぞれ電送に6分と3分を要するものであった。

 各社が更なる高速化を競うなか、1974年にリコーから世界初のデジタルファクシミリ「リファクス600S」が388万円で発売された。A4判の白黒原稿を1分で電送でき、解像度もG1ファクシミリの2倍で、事務用のニーズを満たしていた。これは1分機とも呼ばれG3ファクシミリと呼ばれる衝撃的なファクシミリの出現であった。

 以後、ファクシミリ製造メーカー各社は独自の符号化方式を備えたデジタルファクシミリで高速化を競い合い、販売競争を繰り広げた。しかし、その結果他社製品とは相互に通信できないファクシミリが市場に蔓延し、相互通信できない状況に陥るところとなった。

 国際標準化に向けた活動も、日本がリーダーシップを取る形で進められた。

 ファクシミリで使用される冗長度抑圧符号化方式(発明技術の概要参照)は、1次元符号化方式、2次元一括符号化方式、2次元逐次符号化方式に分類される。1975年にKDD(現 KDDI)が2次元逐次符号化方式の一つであるRAC方式を世界に先駆けCCITTに提案し、NTTも同じくEDIC方式を提案した。

 CCITTでは、1977年から始まる第7会期に向け日本の粘り強い取り組みの結果、G3ファクシミリの基本の符号化方式は1次元符号化方式とし、日本の主張する2次元符号化方式はオプションとして継続検討することで合意された。

 これを受けて、郵政省が1977年に産官学によるファクシミリ通信方式部会を設置し、2次元符号化方式としては、逐次符号化方式を日本統一案とすることになった。そして、NTTとKDDで日本統一案をまとめることが要請され、両社の共同研究の結果READ方式が発案され、1978年12月にCCITTに正式寄書として提出された。

 2次元符号化方式の提案は1979年3月に締め切られ、世界中からREAD方式を含め7方式が提案された。圧縮比、伝送誤りの画質への影響、方式の複雑さと装置コストなど遠大な国際評価試験が実施された。結果として、圧縮比が最も高く、商用化実績もあるREAD方式を軸に議論が進み、各国がアルゴリズムの簡略化を望み英国BPOの修正提案に基づきMR方式がまとめられ、最後に日本が「MR方式が単一の2次元符号化方式として採用されるなら、特許を無償で提供する」旨を宣言し、これを契機にMR方式は全会一致で単一の2次元符号化方式の国際標準として成立した。

 この1980年の国際標準化以降、G3ファクシミリは事務用・家庭用として世界規模で爆発的に普及し、30年余り経過した現在も、複合機も含め毎年1000万台以上が出荷生産され、電話にはない新たな記録通信手段として世界で活躍している

 国際標準化された2次元符号化方式は、最もイノベーティブかつ効率的な方式であり、G3ファクシミリ全体の国際標準化の成功の要であったとして、2012年にIEEEマイルストーンに認定されている。

図1 リファクス600S

図1 リファクス600S

画像提供:リコー

図2  KDDI研究所(当時KDD研究所)が開発したRAC方式によるデジタルファクシミリ「Quick-FAX」(1975年)

図2  KDDI研究所(当時KDD研究所)が開発したRAC方式によるデジタルファクシミリ「Quick-FAX」(1975年)

画像提供:KDDI

図3 MR方式を備えたG3ファクシミリ

図3 MR方式を備えたG3ファクシミリ

画像提供:NTT


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