公益社団法人発明協会

安定成長期

家庭用ビデオ(カセット)

発明技術開発の概要

 ソニーのベータ方式と、ビクターを中心とするVHS方式は、どちらも日本で生まれたへリカルスキャン方式とアジマス記録方式を採用していたが、ベータマックスと、VHSは下表のように異なる特性を有していた。

表1 ベータ方式とVHS当初機種比較

表1 ベータ方式とVHS当初機種比較

(出典:岩本敏裕・「VTR産業の生成」立命館経営学 第45巻 第5号(2007年)147頁より作成)

 ソニーのベータマックスは、前述したU規格と同等の性能確保を意識し、基本録画時間を1時間として画質を堅持、U規格と同じくテープが常にヘッドドラムへ巻きつけられるフルローディングを基本とし、機能性と操作性を重視していた。

 テープのガードバンドレス記録で、テープのガードバンドの余白部分までビデオ信号をベタ状に記録する高密度記録が完成したことから「ベータマックス」と命名された。カセットサイズを文庫本サイズと小さいサイズとした(一方記録時間が短い欠点もあった)。ヘッドとテープの相対速度は6.9m/秒と早くし、高画質を実現した。ローディングは電源を切っても保持され、再生停止した場所が次に続けて再生可能であった。低域変換して記録している色信号の雑音除去でPI(Phase Invert)と呼ばれる色信号処理を採用した。なお、録画時間が1時間と短いことに対応するため、その後2倍モードを開発した。

 一方VHS方式では、家庭用を意識し、基本録画時間を2時間に設定していた。

 テープローディング方式では2本のアームでテープを引き出す単純なメカニズムで、生産しやすく、テープ引き出し量が少なく、テープローディング時間が短い「M型パラレル方式」を採用した。しかし初期のVHSは、再生しないとテープがローディングされず、停止するとローディングが解除される構造のため、早送り・巻き戻し時にテープをカセットに戻す仕様であり、同じ場所からの再生ができないなど、操作性で劣っていた。またリニアタイムカウンターの採用もできなかった。

 録画時間は2時間を実現するため、ベータ方式よりカセットサイズを少し大きくした。また、テープの相対速度は5.7m/秒で、当初は画質がベータより少し劣っていたが、基本規格の録画時間が最初から2時間と長く、長時間モードも有利であった。

 ベータ式に比べ、部品点数が少なく、高い精度の調整箇所が少なかったため、重量が軽く、ベータ方式に比べ生産が簡単なため、各メーカーの参入が容易で、量産化に適した構造であり、低価格化が容易であった。

 


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