安定成長期
炭素繊維・炭素繊維複合材
発明技術開発の概要
(1)PAN系炭素繊維
進藤らにより発明された最初のアクリロニトリル系高分子物により炭素製品を製造する方法は、アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリロニトリル系高分子物すなわちアクリロニトリル単独重合物、あるいはアクリロニトリルと種々の単量体との共重合物もしくはそれらの混合物を炭化し、これをさらに高温で熱処理し、単繊維、糸、綿、紐、布、薄膜等の予定した形態を持つ炭素質体等を製造する方法である。この発明では、酸化性雰囲気中で加熱して短繊維、綿、紐布、薄膜その他の形状を有する炭素質体を製造し、これを更に加熱することにより、出発物に類似した形状を持つ炭素体を製造することができる。
進藤らは、この方法で得られた繊維状炭素を分析し、弱い金属光沢を有すること、顕微鏡下でアクリロニトリル系合成繊維と類似の形状と断面をもつこと、引っ張り強度5000㎏/㎠、電気抵抗5×10-3Ω㎝、ベンゼンによる比重1.82であることを確認した。
(2)ピッチ系炭素繊維
大谷により発明された最初のピッチ系炭素繊維の製造する方法は、天然又は合成の有機物を焼成した溶融状態の原料を使用し、これを焼成温度以下の温度領域で溶融紡糸を行い、その後、酸化処理及び焼成処理を行うことにより炭素繊維を製造するものである。この発明では有機物として、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル等の合成分子物、石油又は石炭ピッチ、塩化ベンジル蒸留残渣、DDT製造の際の副産物等を用いた。出来上がった炭素繊維で、大谷らは4×106 g/㎠の強度を確認した。
(3)地球環境問題への貢献
炭素繊維・炭素繊維複合材は従来の素材に比べて、「軽くて、強くて、腐食しない」という特徴を持つ。このため、それまでの材料をCFRPに替えることにより、エネルギー消費やCO2削減効果等の環境問題にも大きく貢献することとなった。
炭素繊維協会(現 化学繊維協会 炭素繊維協会委員会)は、その軽量化がそのままエネルギー消費量及びCO2の排出量に反映する航空機、自動車及び風力発電の分野で、その削減効果を試算した。これによると、自動車の場合、これまでの自動車にCFRPを17%適用した場合、1台当たり年0.5トン(16%)のCO2削減効果があるとされた。また、航空機についてはCFRPを50%適用した場合、1機当たり年2700トン(7%)のCO2削減効果があるとした。風力発電については定格出力3MWの大型風車のブレイドに適用することにより、1基あたり年3600トンのCO2が削減できるとした13。
また、ピッチ系炭素繊維の新たな産業用途として、近年需要が急伸している太陽光発電や消費電力の少ないLEDライトなどがある。これらに用いられるシリコンや化合物半導体など、高い機能を持つ素材は高温条件下で製造されることが多く、それらの製造装置への炭素繊維製断熱材としての使用可能性が考えられる。