現代まで
ドネペジル塩酸塩
概要
ドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプト)は、エーザイが開発したアルツハイマー型認知症治療薬である。アルツハイマー型認知症治療薬としてタクリンに次ぎ世界で2番目(日本で最初)に開発された1。
アルツハイマー病では、脳に異常収縮が発生し、記憶障害、うつ状態、被害妄想などの病状が起きる。また、異常なタンパク質が神経細胞に沈着することが明らかにされている2。 この結果、中核症状である記憶障害や見当識障害、抽象的思考・判断力の障害などを示すとともに、「痴呆の行動・精神症状群」として総括される精神症状などの随伴症状をも引き起こすとされる3。これは患者及び周りの家族、関係者などに著しい負荷をかけることとなり、アルツハイマー病治療薬の登場は長年にわたって渇望されていた。
エーザイがアルツハイマー病の創薬に本格的に取り組んだ1980年代前半は、認知症の主な原因は脳血管障害との見解が一般的であった。しかし、エーザイは文献調査からアルツハイマー病が将来の認知症の中心となると判断し、当時は過去のものとみられた仮説を追求する決断を下して研究を開始した。同時期、エーザイは研究開発体制を整備し、異なる分野の研究者間のコミュニケーションを活発化させる一方で、研究者間の競争を刺激していた。これによって生まれた脳神経領域研究チームとCADD(Computer-Aided Drug Design)チーム等との連携の下に、研究者を大学に派遣して最新の分子軌道学の導入を図るなどして様々な課題に挑戦し、ドネペジル塩酸塩の創薬に成功した。
ドネペジル塩酸塩は、脳内の記憶に関する神経物質であるアセチルコリンの濃度を高めるものである。これにより、症状の一時的緩和を図ることが可能となった。すなわちアセチルコリンは神経伝達物質であり、神経細胞のシナプスの間で作用する。神経細胞からアセチルコリントランスフェラーゼ(AChT)が働き合成されたアセチルコリンが、次の神経細胞のアセチルコリン受容体にキャッチされると信号が伝達される。 認知機能障害はアセチルコリンがアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンに分解され、受容体にキャッチされる信号が伝わりにくくなることから起こる。ドネペジル塩酸塩はこのアセチルコリンエスタラーゼの働きを阻害することで、アセチルコリンを脳内で増加させ信号伝達を円滑に行うことに寄与するものである4。
ドネペジル塩酸塩は、米国並びに英国では1997 年、日本においては1999 年から販売され、日本とフィリピンにおいては、レビー小体型認知症の適応も取得している。
ドネペジル塩酸塩 構造式