戦後復興期
魚群探知機
概要
古野電気が生み出した魚群探知機は、戦前から受け継がれた超音波技術の発展と、中小企業であった同社のベンチャー精神あふれる行動が生み出したイノベーションである。魚群探知機の登場は、漁業者の経験と勘に依存していたそれまでの漁業を科学的見地に基づく方法へと変革させ、水産業の歴史に大きな足跡を残した。
魚群探知機には軍事用ソナー(船舶用超音波測距・測深機)の原理が応用されている。アンテナに相当する振動子にパルス電流を流すことで、超音波を海中に発射する。超音波は海底あるいは海中の物体に当たって跳ね返り、反射してきた超音波を再び振動子で受信して電流に変化させる。この電流の強弱を記録紙(現在では液晶ディスプレイ)に出力する。これにより、海の深さや海中の魚影などを特定することができる。
魚群探索に超音波を使用する研究は戦前にも試みられたという報告はあるが、その本格的な応用は戦後になってからである。
古野電気は1948年、漁業の科学化を志向する動きの中で、世界で初めて魚群探知機の実用化に成功した。現在では世界40カ国に拠点を有し、魚群探知機のみならず、ソナー、レーダーなどを提供する船舶機器総合メーカーへと成長した。
古野電気の開発した魚群探知機の特色は、次のように整理できる。すなわち、①「軍事用の機器を小型化し安価にして、民生用に転換する」ことを一中小企業が先んじて実現したこと、②ハードウェアとしての魚群探知機のみならず、ソフトウェアとして魚群探知機を生かした漁法のノウハウをパッケージ化して提供することで、顧客を開拓したこと、③これらを円滑に行うために、開発、生産、販売、アフターケアなどを内製化した組織で一元的に提供したこと等である。
ここでは、まず古野電気の歴史について概括し、どのようにして古野電気が魚群探知機を開発し、世界で最初に実用化するまでに至ったのか、また、魚群探知機発売後の経緯について概観する。続いて魚群探知機の研究開発について、着想を得たきっかけ、開発のプロセス、また主なユーザーである漁師に魚群探知機を普及させた手法について明らかにする。
初期の量産型魚群探知機F-261(1950年代)
画像提供:古野電気