高度経済成長期
電子レンジ
概要
電子レンジは、連続波マグネトロン(以下、マグネトロン)という電子管から発生する電磁波(マイクロ波)を利用しており、主に調理用加熱器として広く使われている。マグネトロンの発見は20世紀初頭にすでになされていたが、それが主として使われたのは第二次世界大戦におけるレーダーの開発においてである。
アメリカのレイセオン社の技術者であったパーシー・スペンサー(Percy L. Spencer)は戦時このマグネトロン・チューブの大量生産に成功した技術者であった。彼は、1945年ごろ、マイクロ波が食品の加熱に利用できることを発見した。これに着想を得たレイセオン社は、最初の電子レンジを製品化し、発売したが、家庭の台所に設置するには余りにも大きく、また高価であったため市場の評価を得られなかった1。アメリカでの電子レンジの開発はその後他社において進められ、1952年には家庭用も販売されるまでになったが、広く普及するまでには至らなかった。
マグネトロンが家庭用電子レンジとして新たな市場を創出したのは日本メーカーによる数々の技術改良による。
日本におけるマグネトロンの電子レンジへの応用は、1950年代半ばから開始された。1959年には、日本初の業務用電子レンジ(DO-2273)が東京芝浦電気(現・東芝)によって製作され、1964年には新幹線開業時からビュッフェで使用されるところとなった2。更に1962年、早川電機(現、シャープ)が3、また1963年には、松下電器産業(現・パナソニック、以下「松下」と呼ぶ)も販売を開始した4。これらはいずれも業務用であった。
家庭用が、開発されたのは1960年代後半からで、1965年松下が小型のNE-500を販売したのを皮切りに各社が一斉にその開発競争を展開するようになった。ターンテーブルや安全確保のためのドアロック、センサーによる温度調節などの便宜性を増すとともに、それまで家庭用加熱燃料の中心であったガス事業にも大きな影響を与え、ガスと一体化したガスコンビネーションレンジが開発されるまでになった。
電子レンジに使用されていたマグネトロン自体の技術についても、1967年、レイセオン社の基本特許期限が切れると、各社は自社開発のマグネトロンを電子レンジに搭載するようになった。東芝は1967年に永久磁石を内蔵したマグネトロン2M52を自社開発し、松下、日立製作所、新日本電気も自社製マグネトロンの生産を開始した。1971年には東芝の2M53が、アメリカのリットン社に採用され、日本のマグネトロンの技術がアメリカのそれに対抗できるレベルになった5。
1990年代には日本製電子レンジ用マグネトロンの生産が世界シェア90%以上を占め6、電子レンジそのものも、更なるコンパクト化など洗練を重ね、1980年代には日本の家庭用電子レンジの普及率は世界一となった。そして、2005年、シャープはその生産台数が世界累計1億台に達したことを公表した7。