公益社団法人発明協会

高度経済成長期

座席予約システム

概要

 日本経済が戦後の混乱期を経て高度成長期に入ると、生産活動の拡大と生活水準の向上を受けて、鉄道による旅客輸送量も着実に増加した。特に公用・社用等のための中・長距離旅客が急増大し、特急等の優等列車の利用も増加を続けていた1。当時の日本国有鉄道(以下「国鉄」と呼ぶ)の座席予約業務は、「乗車券センター」で集中的に座席台帳を管理し、窓口との電話連絡により指定券を手書き発行するものであったが、1960年のダイヤ改正で指定座席数が3万座席となることから、この作業も限界と考えられていた。

 このような状況から、国鉄本社は座席予約業務へのコンピュータ導入は避けられないものと考え、1957年に東京-大阪間の新しいビジネス特急のための座席予約システムの開発を決定した。開発は国鉄鉄道技術研究所(現「鉄道総合技術研究所」)のもとで進められ、関連する装置の製造は日立製作所に発注された。「MARS1」(Magnetic-electronic Automatic Reservation System 1)と命名されたシステムの中央処理装置は1959年に東京駅電算機室に納品され、都内及び横浜市の9駅に10組の端末装置が接続された。東海道本線(在来線)の東京-大阪間を走るビジネス特急4列車の2320座席・15日分を対象としたMARS1は、1960年1月18日に営業を開始し、世界で最初の鉄道用オンライン・リアルタイム座席予約システムとされている2。 

 MARS1が予想以上に高性能で信頼性が高いものであったことから、国鉄は直ちに全国の列車を対象とする新しい座席予約システムの開発を検討し、二重系のマルチコンピュータシステムを採用した全く新しい座席予約システム「MARS101」を完成させた。1963年に国鉄秋葉原センターに納められた新しいシステムは、全国の83台の端末装置と電信回線―電信交換機で接続され、各種の試験が行われ、我が国で初めての本格的オンライン・リアルタイム情報処理システムとして1964年にその営業を開始した。同系の「MARS-102」は、1965年10月に全国152駅に開設された「みどりの窓口」に設置され、その機能は全国に普及するものとなった。

 社会インフラともなったMARSシステムは、時代の要請に合わせて段階的・継続的な進化を遂げ、我が国の鉄道システムを支えていった。最新のMARS501は、約6800台の駅端末・みどりの窓口端末、約3000台の旅行会社端末を接続しつつ、繁忙期にも毎秒250コール、平均6秒での応答を可能としている。また、インターネットサービスを経て、利用者が直接アクセスすることも可能となり、ホテル、レンタカー、各種イベント等の予約にも対応するようになった3

 鉄道のオンライン座席予約システムにより培われたオンライン・リアルタイム情報処理システム技術は、その後の我が国コンピュータ産業の大きな財産のひとつともなっている。


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