公益社団法人発明協会

高度経済成長期

接ぎ木(野菜)

概要

 まず、「接ぎ木」について説明しておこう。接ぎ木とは、ある植物の芽や枝(穂木という)を切り取り、根をもつ他の個体の茎など(台木という)に接ぎ癒着させること。我が国でも、果樹などの樹木では古代から実用化されていたが、野菜については近年まで不可能視されていた。その野菜で最近接ぎ木栽培が注目されるようになったのは、この方法によって病虫害を回避することができ、それまで不可能とされていたウリ科などの野菜の連作が可能になったからである。

 2009年現在の(独法)農研機構野菜茶業研究所の調査によると、我が国のスイカの94%、キュウリの93%、ナスの79%、トマトの58%、ニガウリの41%は耐病、強健性台木を利用した接ぎ木栽培によるという。接ぎ木栽培の急激な普及は海外でもみられ、とくにオランダのトマト、スペイン・イタリアのスイカはほぼ100%接ぎ木苗利用であるという

 野菜の接ぎ木苗が今日のように普及したのは、労働力不足や農家の高齢化が顕在化した1980年代後半からである。セル成型苗が出回り、育苗の簡易化・大量生産が可能になったこと、地球温暖化への関与が懸念される臭化メチル(土壌消毒剤)の使用が制限されたことなどが原因である。

 1990年に開発された板木利隆の「全農式幼苗接ぎ木苗生産システム」は、こうした条件に適応し、初心者でも高い活着率が得られることから急速に普及した。現在は、国内はもとより、世界各国で代表的なナス科野菜の接ぎ木方法として採用されており、Japanese methodとも呼ばれている。

 野菜の接ぎ木栽培が今日のように普及するまでには、農家と農業技術者の長い技術開発の歴史があった。我が国で、初めて接ぎ木を実用化したのは、1927年にカボチャの台木にスイカを接いだ兵庫県の1農家といわれる。土壌伝染性病害のつる割れ病を回避するためだが、こうした病害を防ぐ抵抗性台木の開発には試験場の協力が不可欠である。以後、接ぎ木栽培の実用化は農家と試験場の協力で、ナス、キュウリと続くが、本格的に普及するようになったのは、戦後、野菜需要が急増した1955年ころからであった。野菜の接ぎ木栽培の歴史は、土壌病害という難敵に、農家と農業技術者が共同戦線で挑んだ戦いの歴史といってもいいだろう。

図1 接ぎ木直後のトレイ苗(接合部を支持具で支える)

図1 接ぎ木直後のトレイ苗(接合部を支持具で支える)

画像提供:JA全農


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