高度経済成長期
NC 工作機械
発明技術開発の概要
NC工作機械に搭載されるNC装置の実用化、普及を確実にした核心的技術は、「電気・油圧パルスモータ」及び「代数演算式パルス補間回路」の二つの要素技術である。
1959年ファナックにより開発された「電気・油圧パルスモータ」は、入力する電気信号のパルス周波数に比例した速度で回転する電気パルスモータ、電気信号のトルクを増幅する油圧モータを組み合わせたものである。これは、位置検出によるフィードバックを必要とするクローズドループ方式と違いオープンループ方式であるため、システムの安定化に大きく寄与する。加えて、装着する工作機械の機種などが変化しても、サーボ機構に埋め込む電気パルスモータを換える必要はない。利用者は、油圧ポンプに必要な出力レベルに応じて油圧モータを変更するだけでよく、サーボ機構を設計する手間は従来と比べて大きく減じられることとなった。当該「電気・油圧パルスモータ」は国内外で特許取得されるとともに、1965年には西ドイツのシーメンス社に対して製造権及び欧州における販売権が供与され、海外のライバルメーカーでさえ欲しがる優秀な技術であることが証明されたのである。
「代数演算式パルス補間回路」は、同年ファナックと東京大学の元岡らとの共同研究により開発され、国内外で特許化された技術である。様々な加工方式により連続的に加工を行う必要があるNC工作機械では、工具が切れ目なく連続的に作動するよう制御することが求められる。しかし、それまでは工具の通路が直線でしか計算、制御できなかったが、新たに開発された「代数演算式パルス補間回路」では、直線と円弧により工具の動きを曲線的に近似計算できるようになったのである。さらに、切削加工などに用いるカッタ半径を変更するたびに指令テープを作り変えて入力する必要があった従来の方式と比べ、カッタ半径を補正する機能も盛り込まれた本方式では、プログラム作成の手間が大幅に簡素化されることとなった。
1972年には、ファナックによりNC内部に小型コンピュータを埋め込んだCNCであるFANUC250が世界で初めて開発される。これにより、プログラムを交換するだけで同一NC装置が全く別な機能を遂行できるようになり、NC装置は新しい時代を迎えることとなった。すなわち、「ハードワイヤードNC」から「ソフトワイヤードNC」へ、NC装置の性能がソフトウエアにより規定される時代に突入したのである。さらに、1973年の第一次石油ショックを受けてファナックにより開発された電動式のDCサーボモータは、NC装置の小型化、高速化をさらに進めることとなったのである。