高度経済成長期
ブラウン管テレビ
発明技術開発の概要
ブラウン管テレビは、後方に配した電子銃から発した電子ビーム(電子の流れ)を、ブラウン管の膨らみ部分である蛍光管(スクリーン)に当てることで映像を表示する装置である。電子ビームの制御をはじめブラウン管テレビには、当初は真空管が用いられていたが、白黒テレビの後半及びカラーテレビでは1970年頃からトランジスタが採用されることとなった。日本企業はいち早くトランジスタ化を推し進め、その後の開発競争を優位に進めることになる。
ブラウン管は漏斗形状になっており、その漏斗の先に電子銃が配置されている。電子銃から発射された電子ビームを漏斗状の広がり全体に行き渡らせるためには、電子ビームを曲げる必要がある。その電子ビームを曲げる機構が偏向ヨーク(電磁石)であり、磁場によって電子ビームが曲がる。1960年代に競争の焦点の一つであった広角化は、偏向ヨークを改善して電子ビームを急激に曲げて、より広範囲にビームが届くようにすることを意味する。広角化は、テレビ画面の拡大とテレビ自体の奥行きの縮小につながる重要な技術であった。
カラーブラウン管では、以上に加えてRBG(赤青緑)の蛍光体を塗布した蛍光管が必要となる。1960年代に日米欧企業が積極的に開発競争を進めた輝度の改善は、蛍光管に塗布する新しい蛍光体塗料の開発であった。
さらに、カラーブラウン管では、電子ビームを的確にRBGの蛍光体に当てるための装置が必要となる。RCA社が開発し、多くの日米欧メーカーが採用したシャドーマスク方式では、シャドーマスクと呼ばれる細かな穴の空いた金属板が不可欠である。電子ビームはこの穴を通じて蛍光管のRBGの蛍光体上に当たるように制御される。
他方で、ソニーが採用したクロマトロン方式は、カラースイッチンググリッドを使うことで、縞状に配置された蛍光体と同じ形をした格子に電流を流し、信号電圧で電子ビームを曲げて発色させるという方式であった。
この方式は、電子ビームを遮る形をとるシャドーマスク方式と比較して非常に明るいことが利点であるが(電子ビームの透過率82%)、量産化技術の確立は非常に難しいという問題があった。その上、ソニーが開発を始めてようやく試作に漕ぎ着けた頃には、シャドーマスク方式の改善も進んでおり、クロマトロン方式のブラウン管も一時的には量産化されたものの、すぐに中止されることとなった。
その後、ソニー社内でもシャドーマスク方式を採用することが検討され、その方面の研究も開始したようであるが、同時に独自方式の追求も継続された8。そして、アパチャーグリルと呼ばれるすだれ状に穴が空いた金属板を使用するトリニトロン方式の開発に成功する。
トリニトロン方式での電子ビームの透過率は20%程度であったが、それでも透過率15%のシャドーマスク方式に比べれば格段に明るく、光の漏れが小さいために高精細の画面に向くという利点があった。ただ、アパチャーグリルを止める金属テープが振動し、色のむらが生じるという問題もあった。しかし、それは当時社長であった井深のタングステン線を横方向に張るというアイデアで解決された9。このようなトリニトロン方式による高輝度化・高精細化はシャドーマスク方式採用していた日本メーカーを刺激し、更なる改善に向けた研究開発を促すこととなった。
1997年にソニーは世界に先駆けて平型ブラウン管テレビベガを発売するが、これはトリニトロン方式が、シャドーマスク方式と比較してブラウン管を平面上に用いることが容易であったことに起因している。このような平型ブラウン管テレビは高く評価され、2000年初頭までソニーの収益性を押し上げることとなった。
(本文中の記載について)
※ 社名や商品名等は、各社の商標又は登録商標です。
※ 「株式会社」等を省略し統一しています。
※ 氏名は敬称を省略しています。