公益社団法人発明協会

高度経済成長期

郵便物自動処理装置

イノベーションに至る経緯

郵便量の増大と制度的背景

 1960年代に入り、経済成長が進んだことで、日本国内の郵便物の量は年率4%から7%で増加していた。また、都市部への人口の集積が進み、社会環境が急速に変化し、それに伴って郵便の流通量も大きく変化していた6。このような状況でありながら、郵便配達システムはその大部分を人力に頼っており、郵便の量が増えるペースに合わせて人員や郵便局の作業スペースの拡充をすることには限界があった。次第に配達の遅延が慢性化するようになり、郵便の集配システムを合理化する必要にせまられていた。自動処理装置の開発は、郵便システム全体の近代化の一環として進められたのである。

 郵便システムの近代化は、世界各国で共通の問題となっていた。1961年10月に東京で行われた万国郵便連合のCCEP(郵便研究諮問理事会)では、郵便物の区分や窓口業務の自動化を進める必要性、封筒の規格を標準化する必要性等が報告された。日本国内の郵便に関しては、1961年には私製葉書の定形が定められ、1962年10月に封筒のJIS規格21種類が初めて定められると、郵政省はそのうちの8種類を郵便推奨規格として広報した。1966年には第1種郵便物の定形・定形外の区分が定められた。

 1964年(昭和39年)、郵政大臣が郵政審議会に対して「郵便事業経営の近代化について」諮問したことによって、郵便システムの自動化は行政上の課題としてとらえられるようになった。郵政審議会は同年11月に答申を報告、長期的な年次計画による機械化の推進プロジェクトを行うこと、また、郵便番号制度を導入することが答申された。

当初の自動化

 郵便局内の作業は当初、4種の機械によって自動化された。①郵便物自動選別取揃押印機、②郵便番号自動読取区分機、③小包自動区分機、④局内搬送機の4種である7。自動選別取揃押印機は、郵便物をまず、機械処理できるもの(定形郵便物)と手作業での処理が必要なもの(定形外郵便物)に選別する。機械処理のできる郵便物についてはそれを前後・表裏を取り揃えながら一通ずつ搬送し、切手の色を判別することで消印を押印するところまでのプロセスを行う。郵便番号自動読取区分機は、郵便番号を読み取り、配送先ごとの区分ポケットに仕分する機械である。区分ポケットの数は当初は50個や100個であったが、近年は400個に区分できるものも存在する。小包は大きさの標準化が困難であることから、別途小包自動区分機で搬送し、手入力で郵便番号を記憶させていた。また仕分け作業用のスペースが手狭になってきていたことから、都市部の郵便局では複数階にわたる作業スペースが設計され、ベルトコンベアや荷物の上げ下ろし用のエレベーターなど、局内用搬送機の開発も進められた。

 郵政省の指導の下、システムの開発を進めた企業のうち、NECは1961年頃より各種機械の開発を進め、1966年度より大宮局による実験を開始、翌1967年度には実用段階に至っている。東芝も工業技術院電気総合研究所(当時)の飯島泰蔵の研究成果などを取り入れつつ1965年より開発を開始し、1968年の郵便番号制度開始時には東京中央郵便局に自動区分機を納入した。

 自動化機器の開発と並行して制度設計も改良された。郵便番号を書きこむ赤い枠を設定し、番号を認識しやすくするとともに、枠と枠の間を空けることで、字が重なって書き込まれないように工夫された。1968年7月に郵便番号制度は施行された。

 また、単に機械を郵便局に導入すれば近代化が成立するわけではなく、どのくらいの規模や能力の機械を、どの程度の数の郵便局に設置すれば合理化されるのか、その見積りや予測計算も重要であり、オペレーションズ・リサーチ等数理統計モデルの発達による分析結果の向上も無形ながら本イノベーションの重要な要素となった8

 自動化の当初は、選別機や押印機、区分機など複数の機械を組み合わせることによって自動化が行われていた。個別の機械の改良と並行して、機械と機械の間の手作業工程を自動処理化して一貫した全自動処理システムを開発する作業も、1970年代、1980年代を通じて行われた9

郵便物自動取揃押印機TC-3型

郵便物自動取揃押印機TC-3型

画像提供:東芝

郵便番号の7桁化と透明バーコードの付与

 1970年代以降は郵便番号以外の文字認識の研究も大々的に進められた。1971年から8年間にわたって行われた国家プロジェクト「パターン情報処理システムの研究開発」では、音声や図形の認識など様々なパターン認識が研究され、そのうちの一つの研究テーマとして文字認識の手法が研究された。画像の特徴から文字を判別する方法と、住所に関するデータベースを組み合わせることで、住所を推測するプログラムが開発された。

 このような研究開発の結果、1989年には手書き文字の認識技術を用いた自動区分機が登場し、住所の全てを光学読み取りによって自動認識できるようになった。住所の全てを読み取ることができるようになったことで、引受局における配達人単位への自動区分を行うことができるようになった。

 3桁あるいは5桁の郵便番号のみを読み取っていた自動化処理は、差し出された局において各送付先の郵便局単位に区分するだけの、プロセスの前工程の自動化であった。全国各地から配達局に集まった郵便は、手作業で各配達地域・配達人単位に分けられ、配達人は配達順にその郵便を並び替えて配達をしていた。それが住所レベルの自動認識が実現することで、プロセスの後工程も自動化することが可能となった。

 1998年には郵便番号が5桁から7桁へと拡張された。7桁に拡張されることで、住所は町域単位で全て数値化され、丁目・番地等の数字と合わせることで、住所のほぼ全てを数字として処理することが可能になった。7桁の郵便番号と住所を読み取った結果は、透明なバーコードで封筒に印字される。自動で読み取れなかった郵便物は、別途オペレーターが郵便物の映像をビデオで確認し、住所を手入力してバーコードを付与する。

 配達局などの後工程では、様々な局から集められた郵便を、再度配達地域別に更に詳細に区分し、配達順に並べ替える作業を行う。このような作業の際に、引受局で印字された透明バーコードを読み取れば、文字認識を改めて行う必要がないようになっている。郵便番号の7桁化によって定形郵便物の自動化はほぼ完成した。2000年代以降は、郵便物の2割ほどを占める大型郵便物の自動化が取り組まれている10


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