公益社団法人発明協会

高度経済成長期

電子式卓上計算機

概要

 計算器具は、かつてそろばんや計算尺が代表的なものであった。しかし、それらに熟達するにはかなりの修練を必要とした。

 今日の電卓は、これを誰でもできる簡便な機器としたが、それは小型化と軽量化、多機能化と高機能化という技術開発の歴史を経て誕生してきたものである。

 電卓開発以前の日本においては、リレー式計算機が最も進んだ計算機であった。日本でも1957年にカシオ計算機(以下「カシオ」と呼ぶ)からこの型の優れた計算機「カシオ14-A」が製造販売されている。電子式計算機が急速に開発されたのは1960年代になってからである。1964年3月、早川電機工業(現 シャープ(1970年に社名変更)、以下「シャープ」と呼ぶ)が、まずCS-10Aという演算素子にトランジスタを使った計算機の開発を発表し、6月に販売した。これが世界初のトランジスタを使用して作られ販売された電卓(電卓の名称は後年のものであるが半導体使用の計算機を以下「電卓」と呼ぶ)とされる。一方、ほぼ同時期にキヤノンカメラ、ソニー、大井電気(いずれも当時)の3社も相次いでトランジスタ使用の電卓製品を発表し、東京晴海のビジネスショーなどに出展した。翌年以降になると、更にカシオや東芝、日本計算機販売など大手企業から中小企業まで多くの企業による参入が始まり、激しい競争が繰り広げられるところとなった。

リレー式計算機 14-A(1957年)

リレー式計算機 14-A(1957年)

画像提供:カシオ計算機

世界初のオールトランジスタによる電卓 CS-10A(1964年)

世界初のオールトランジスタによる電卓 CS-10A(1964年)

画像提供:シャープ

 この時期は集積回路(IC)の開花期であったが、これがもっとも大量に活用されたのがこの電卓分野においてであった。小型軽量化と低価格化を目指した各社の激しい競争は、トランジスタからIC (Integrated Circuit:集積回路)、さらにLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)の採用によって次々と新たな製品を生み出していった。IC利用の先陣を切ったのはシャープで1966年には28個のIC使用の計算機を発売し、さらに1969年には、世界で最初のLSI使用電卓の開発にも成功している。

 LSI使用電卓は各社の競争を一層激化させた。その中で1972年にカシオが発売した「カシオミニ」は、驚異的な低価格とサイズの小ささから、多くの企業の撤退を促すほどの衝撃を与えるとともに、それまでオフィス需要が中心だった電卓を個人あるいは家庭にも普及させる画期的な商品となった。

 多くの企業が撤退する中でシャープは、1973年液晶を使用した電卓を開発し、また新たな歴史を切り開いた。その後の電卓業界はシャープとカシオの二強の時代を迎えることとなった。

 電卓の生産量は、1965年の4000台から1985年にはピークの8600万台を記録した。

 電卓はその旺盛な需要から半導体や液晶といった電子・電気産業の発展にも大きな影響を与えた。その観点から日本の半導体50選に選ばれるとともに2005年にはIEEEマイルストーン(シャープ)に認定されている。


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