高度経済成長期
トランジスタラジオ
概要
「トランジスタラジオ」とは、半導体素子である「トランジスタ」を使用したラジオのことを指す。トランジスタラジオが発明される以前より、ラジオそのものは既に普及していた。しかしながら、その多くは真空管を使用していた。そのような中で、トランジスタを使用することで、ラジオを始めとする電子製品の小型化の地平が開けたのである。
トランジスタは1948年、米国ベル研究所で発明された技術である。発明当初のトランジスタ半導体は、ラジオ放送の周波数帯で増幅器として用いるには不安定であり、民生用での用途は限られていた。しかしながら、東京通信工業(現 ソニー(1958年に社名変更)、以下「ソニー」と呼ぶ)は、1953年米国ウエスタン・エレクトリック社(以下「WE社」と呼ぶ)とトランジスタ製造に関する特許のライセンス契約を結ぶと、社運を賭してトランジスタラジオの開発・製造に取り組み始めた。当時のソニーは創業7年目(創業1946年1)、従業員数269名の新進気鋭のベンチャー企業であった。当時、日本のラジオの世帯普及率は74%にまで達しており、成熟市場であると思われていた。しかし、個人ベースでみるとまだまだ潜在性がある、とソニーの井深大(以下「井深」と呼ぶ)や盛田昭夫(以下「盛田」と呼ぶ)は見抜いていた。世界初のトランジスタラジオの発売という快挙こそ米国企業に譲ることとなったが(米国リージェンシー社が1954年に世界初のトランジスタラジオを発売)、1955年には「SONY」の商標を冠した日本初のトランジスタラジオ「TR-55」の発売に成功した。
小型で携帯性に優れるソニーのトランジスタラジオは日本初のトランジスタラジオとしてたちまち注目を浴び、「一人一台」という新たなライフスタイルを提案した。そして、当時世界最小のラジオである「TR-63」の開発に成功した。この「TR-63」を携え、ソニーは世界へ進出していった。「TR-63」は米国市場でも成功し、「ポケッタブルラジオ」の名を世界中に広めた。
世の中には数多くのポータブル製品が存在する。ソニーが開発した「TR-55」は、現在使用しているほとんどすべてのポータブル機のテンプレート(ひな形)になっているという2。また、このトランジスタラジオの日本市場、世界市場での成功により、ソニーは、日本を代表するグローバル企業への歩みを進めていった。それに加えて、トランジスタラジオの開発・製造工程の分析から、江崎玲於奈(以下「江崎」と呼ぶ)のノーベル賞にもつながった。このような点からも、トランジスタラジオは戦後日本における極めて重要なイノベーションの一つであるといえよう。
日本初のトランジスタラジオ「TR-55」
画像提供:ソニー