高度経済成長期
電界放出形電子顕微鏡
概要
電界放出形電子顕微鏡(FE-SEM:Field-Emission Scanning Electron Microscope)は、電子顕微鏡の一種である。電子顕微鏡は、光の代わりに電子を用いることで、光学顕微鏡よりもはるかに高い倍率を実現することができる。
走査電子顕微鏡(SEM)の基本コンセプトは、1935年にドイツの物理学者Max Knollによって考案されたものであり、その歴史は古い。しかし、分解能が十分に高い(すなわち非常に小さいものがはっきりと見える)電界放出形の走査電子顕微鏡(FE-SEM)が実用化されたのは、米国人研究者Albert V. Creweの電界放出形電子源のアイデアを具体化した、日立製作所(以下「日立」と呼ぶ)の商用機が登場した1972年のことである。
その後、日立製のFE-SEMは、世界中の研究機関で使用されるようになった。最近では、ウイルスの観察・撮影などの医療・バイオ分野の研究や、触媒、電池の電極材料、ナノチューブなどのナノテク分野の研究にも幅広く使用されるに至っている。
当初、FE-SEMの用途は理化学分野の研究に限定されていたが、「測長SEM」の登場によって、その用途は抜本的に拡大し、半導体産業に不可欠なツールへと発展した。FE-SEMの応用技術である測長SEMを開発したのも日立であった。その登場は、基本コンセプトの発明から50年ほど後の1982年のことであった。
測長SEMは、半導体集積回路(LSI)の回路素子の微小寸法を自動的に計測できるものであり、微細化・高集積化が進むLSIの開発と製造に非常に大きなインパクトをもたらした。測長SEMは、その誕生から約30年経った今日でも、微細化、高集積化が進むLSIの開発、製造に欠くことができないツールとして、半導体産業を支え続けている。
世界初の商用FE-SEM「HFS-2形」(1972年)
画像提供:日立ハイテクノロジーズ