公益社団法人発明協会

高度経済成長期

電界放出形電子顕微鏡

発明技術開発の概要

 従来の熱電子型の電子源は、通電加熱された陰極(タングステン・フィラメント)から発生する熱電子を電子源として使用している(図10左)。

 これに対し、電界放出形の電子源は、先端曲率を約100ナノメートルに化学研磨したタングステン単結晶を陰極として用い、室温で3~6KVの電圧を印加すると、陰極からトンネル効果で電子が飛び出す原理を利用したものである(図10右)。

 電界放出形電子源は、熱電子型に比べて100倍以上も高輝度(10Acm-2rad-2に対し10Acm-2rad-2)なだけでなく、電子線のエネルギーのばらつき幅が熱電子型の約10分の1(2~3eVに対し0.2~0.3eV)であり、走査電子顕微鏡の高分解能化に適している(図10)。

図10:熱電子型電子源と電界放出型電子源

図10:熱電子型電子源と電界放出型電子源

出典:小室修 他「1Xnm半導体プロセスの工業計測」日立評論Vol.94. No.2

 しかし、この電子源を安定的に動作させるためには、10-8Pa程度の超高真空が必要である。陰極付近の金属に電子が衝突すると、その表面からガス分子が放出されて超高真空状態を壊すため、電子ビームを出した状態で10-8Pa程度の超高真空状態を維持する技術が必要だった。そのため、電界放出形電子源開発の最初の10年間は、主に電子源を安定動作させる真空技術の確立に費やされたといわれる。例えば、装置に使用される部品を組立て前に徹底的に洗浄するだけでなく、脱ガス処理を行って個々の部品の清浄度を高めた上で顕微鏡の組立てが行われる。こうした地道な真空技術の開発と製造ノウハウの積み重ねによって、電界放出形電子顕微鏡が実用化できたのである。

 

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