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中空糸

概要

 中空糸(hollow fiber)とは繊維内部の真ん中がストロー状の空洞になっている化学繊維であるが、一般的に中空糸に関する画期的な技術は中空糸状分離膜(中空糸膜)であると考えられる。物質を分離する方法としては蒸留や晶析をはじめとして各種のものが存在するが、膜を利用して物質を分離する際に使用される膜のことを分離膜と呼ぶ。分離膜を用いて物質を濾過(ろか)する(圧力差によって溶媒を移動させる)場合、その分離膜は分離対象物の大きさと濾過の駆動力によって、逆浸透 (RO: Reverse Osmosis) 膜、限外濾過(UF: Ultrafiltration)膜、精密濾過(MF: Microfiltration)膜などに分類することができる。図1は分離対象物の種類と分離膜の位置づけを示したものである。

図1 分離対象物と分離膜

図1 分離対象物と分離膜

出典:繊維学会編『産業用繊維材料ハンドブック』(日刊工業新聞社、2011年)324頁

 中空糸状分離膜は中空糸繊維に分離機能が付与されたものである。中空糸の内側又は外側の膜表面の壁にナノメートル単位の微細な孔が無数に開けられており、この孔から物質を濾過することが可能になっているが、この内壁を利用することにより濾過面積は従来型の平面上の分離膜(平膜)よりも飛躍的に拡大した。この中空糸状分離膜の主な特徴は、以下の4点にあると考えられる。①繊維産業における紡糸技術を応用できる、②熱交換器型と言われるモジュール(加工した膜を収納する容器)に組み上げるシンプルな方法で分離器として使用できる、③小型で大きな膜面積を収容できる、④膜面積に対するプライミング・ボリューム(分離器の中に入れる用液量)が小さいため、人工透析のような体外循環の場合は圧倒的に有利である。透析に用いられる人工腎臓などの場合、中空糸を利用した小型で効率の良い濾過装置は患者の負担を大幅に下げることに貢献している。こうした特徴を生かして、浄化・排水処理、人工透析をはじめとする血液浄化用途、純水の製造装置、海水淡水化、血漿製剤のウイルス除去等、各種の幅広い用途に中空糸状分離膜が用いられている。図2は中空糸膜と平膜の面積を比較したものである。

図2 中空糸膜と平膜の面積比較

図2 中空糸膜と平膜の面積比較

出典:東洋紡ホームページ「工業用膜」<http://www.toyobo.co.jp/seihin/hq/>(2015年4月29日アクセス)

 

 このように、中空糸状分離膜は多種多様な用途に用いられ、また社会・経済的に大きなインパクトをもたらした素材であるが、本稿では特に中空糸状分離膜を用いた人工腎臓と逆浸透膜について取り上げる。


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