公益社団法人発明協会

安定成長期

薄型テレビ

発明技術開発の概要

 TFT液晶テレビに採用された技術や検討された技術をさらに詳細に見ていこう。

 液晶テレビ開発において、一つの大きな分岐点となったのは、液晶技術の選択である。上述のとおり、1975年からシャープの中央研究所では二つの技術を検討していた。一つ目は、透明電極を短冊状に形成した1組のガラス基盤を互いに直交するように貼り合わせた構造で、線順次に駆動する単純マトリックス型(デューティ液晶)である。二つ目は、薄膜トランジスタを各絵素に形成し、TFT(Thin Film Transistor)のオンオフで駆動するアクティブマトリックス型である。

 デューティ液晶では、デューティ比8を上げてコントラストをかせぐために、液晶パネルを2枚重ねた構造で、更に各パネルには二重電極構造を施して、動画をモノクロ表示していた(5.5型160×120画素、1/15デューティ)。しかし、この方式では、画質としては視角が狭く残像が残っており、ブラウン管方式を代替するようなものとはならなかった9

 そこで、テレビ用途には画質の点からデューティ液晶よりもTFTを用いたアクティブマトリックス型を本命として、カラー液晶テレビの開発が進められた。開発項目の中でも、とりわけ、表示方式が重要ポイントの一つとなっていた。そこで、液晶光学特性としての旋光、干渉、散乱、更に光学補償を加えて、構造の絞り込みを行っていった。その中で、旋光特性を利用するTN (Twisted Nematic ) LCDで、電圧無印加時に黒、電圧印加時に白表示になるノーマリブラックモードと、逆の電圧無印加時に白、電圧印加時に黒表示になるノーマリホワイトモードの2種類が候補に残った。

 ノーマリブラックモードの特徴は、駆動電圧が低いためTFTへの負荷が小さく、またTFTの欠陥が目立ちにくい反面、黒レベルが十分でないこと、低階調特性に難点があること、温度依存性が大きいことなどの短所がある。一方のノーマリホワイトモードの特徴は、コントラストが高く、階調特性に優れ、また温度変化にも強いという長所がある反面、駆動電圧が高くTFTに負担がかかり、歩留まりが低くなるという短所がある。

 1986年、シャープでは、TFTに負担が少ないノーマリブラックモードを採用した試作品を完成させて学会で公表したが、ノーマリブラックモードとノーマリホワイトモードの画質の差は歴然としており、ノーマリホワイトモードの方が、画像の締まりが圧倒的に優れていた。歩留まり高さからシャープではノーマリブラックモードの採用を決めていたが、これを受けて、急きょ、ノーマリホワイトモードを採用することとなる。

 こうした判断から、1987年5月に3型カラー液晶テレビ(384×240、デルタ配列、ノーマリホワイトモード採用)の商品化に漕ぎ着ける。その後は、この開発技術をベースとして、特に黒を重視し、1988年に14型TFT-LCDの開発、1995年に8.4型/10.4 型液晶テレビの商品化から、2000年以降の大型液晶テレビの製品展開につながっていく。

図3 テレビ用14インチTFT液晶ディスプレイ

図3 テレビ用14インチTFT液晶ディスプレイ

(提供:シャープ)


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