公益社団法人発明協会

安定成長期

ポリエステル合成繊維(シルク調等)

概要

 ポリエステルは、1941年に英国のキャリコ・プリンターズ社によって開発された合成繊維である。その後、ポリエステルは1953年に米国のデュポン社によって「ダクロン(Dacron)」の名称で工業化され、1955年に英国のICI社によっても、「テリレン」の名称で工業化されている。

 日本においては、1958年に東洋レーヨン(現 東レ、以下「東レ」と呼ぶ)と帝国人造絹糸(現 帝人、以下「帝人」と呼ぶ)によってその工業化がなされた。2014年時点では、国内7社のメーカーによって生産されている。さらにポリエステルは、合成繊維の中で最も多く生産されている合成繊維でもある。

 当初、ポリエステルは染色性に問題があったものの、その他の多くの性質において優れた点を有していた。さらに、ポリエステルは価格も低かった。そのためポリエステルは、衣料用途を中心に広く社会に普及した。

 東レ・帝人を中心とする日本の合成繊維メーカーは、ポリエステルの工業化に成功した後に、その製造工程の技術開発に取り組むだけではなく、新製品の開発にも取り組んだ。とりわけ東レにおいて、1964年から生産が開始された「“シルック”は透明度の高い三角断面糸で絹のような優雅な光沢を有し、洋装・和装ともども市場を拡大し、差別化製品の柱となる画期的なものであった」1。このシルックは、その後、日本の合成繊維メーカーで生み出される多くの差別化製品の先駆け的存在であった。

 その後1980年代になると、日本の合成繊維メーカーのポリエステル開発は、プラザ合意成立後の円高、天然繊維ブーム、さらには、台湾・韓国などの企業が製造する安価な製品の出現といった要因に大きな影響を受けた。これに対し、日本の合成繊維メーカーは、それまでにも取り組んでいた差別化製品の開発に、より一層取り組んだ。そして、合成繊維でしか実現できない見た目、性能、風合いを引き出すことに成功した。その結果、誕生した合成繊維が「新合繊」である。「新合繊」はシルク調、ウール調、ピーチスキン調など多彩な外観・肌触り・着心地を実現し、日本だけでなく世界中で注目を集めた。

 英国で開発されたポリエステルについては、日本の合成繊維メーカーがその工業化に成功しただけでなく、その後、製品差別化戦略の下、素材としての新たな付加価値が与えられた。絹の持つ特徴に似せたシルック等のポリエステルの開発、及び「新合繊」の開発は、日本の合成繊維メーカーの技術力の賜物であり、日本だけでなく世界を魅了したイノベーションと言えよう。


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