公益社団法人発明協会

安定成長期

直接衛星放送サービス

発明技術開発の概要

(1)簡易型受信機

 衛星放送に割り当てられた12GHz帯受信機用ダウンコンバータとしてNHKは導波管内の一枚の金属板上に立体平面回路を構成する手法を1970年代初期に開発した。この方式は国内外で当時は集積回路で開発していた受信機に比べて飛躍的に低損失、低雑音、かつ、大量生産可能で、結果として必要な衛星送信出力も低減可能となり、直接衛星放送実現に大きく道を開いた。NHKは国内外メーカーにこの技術を指導して実用になる簡易高性能受信機の開発を支援し、直接衛星放送の早期実現に大きく貢献した。

(2)12GHz帯電波伝搬特性

 地上使用の周波数帯に比べて降雨減衰の影響が大きい12GHz帯で、衛星受信のように高仰角の電波伝搬特性評価のため、NHKは技術研究所屋上に太陽雑音受信機及び降雨強度計と雨量計を設置し1967年からBS打ち上げまで測定を行った。また、熱帯のマレーシアでも1970年から2年間測定を行った。この結果、降雨減衰の影響の正確な実測評価データを得て国際無線通信諮問委員会(CCIR、現ITU-R)に報告し、国際的な技術基準作成に寄与するとともに、WARCで各国へ軌道位置やチャンネルを割り当てるための計算機シミュレーションも行って早期の実用衛星放送開始に貢献した。

(3)衛星搭載用高出力TWTA

 BSのTWTAはヒューズ社製の結合空胴型と呼ばれるもので、搭載した3台ともTWTA取り付けパネル温度が1年で最も高くなる夏至直前の時期に故障した。電源部高圧回路充填剤内部クラックの放電が誘引と推定され、充填剤の選定等がBS-2設計に反映された。BS-2a/2bでは3年寿命のBSと同規模衛星で推進薬を5年分搭載するため、TWTAの重量軽減可能なトムソン社製ヘリックス型に変更したが、BS-2a打ち上げ後、衛星が地球の影に毎日出入りして温度変化が厳しい期間(食期間)から夏至までに3台中2台が停止した。放送衛星対策特別委員会がSACに設置されて原因究明の結果、送信管電子銃部の熱環境が原因ということでBS-2bでは低温維持対策を実施、食期間の温度変化を模擬した24時間周期、40サイクルの熱真空環境試験で不具合発生なしを確認した。この食期間相当の熱真空サイクル試験はBS-3a/3b以降の搭載TWTAにも適用された。BS-3a/3bではこれらの経験と実績を踏まえた熱設計や長寿命化のための電極設計などをNHKが技術指導していたNEC製の120W TWTAを搭載し、すべて衛星寿命終了まで安定な動作を得た。

(4)放送用アンテナ

 衛星放送では放送波の受信電界が日本本土だけでなく、小笠原や与那国などの離島でも十分に高くなるよう効率的、かつ、隣国への漏えいを規格内に抑える送信が必要で、この実現のために搭載アンテナの送信利得パターンを日本のサービスエリア形状に合わせる成形ビームアンテナとした。BS、BS-2a/2bではこれをだ円形の反射鏡と、本土、沖縄、小笠原向けの3個で構成するマルチ給電ホーンの組み合わせで実現した。BS-3a/3bではNHK、NASDAの技術指導でNECが開発した本土、沖縄向けのだ円開口コルゲートホーン1個に小笠原向け短辺コルゲート矩形ホーンを組み合わせた給電ホーンで更に効率的な利得パターンを実現した。

(5)アンテナ指向精度

 成形ビームアンテナではアンテナ指向誤差が大きな受信レベル変動を引き起こすため、高精度な指向方向維持が必要で、BSではこの検証のため離島を含む全国10地点に受信モニタ局を設置し、受信レベルの1分ごとのデータを東京のNHKで毎日収集する世界に例のないシステムを構築した。この受信データの解析の結果、衛星姿勢情報では指向誤差がないはずの時にも無視できない受信レベル変動の存在が判明した。RRL、NASDA、NHKで構成した受信レベル変動要因検討会を設置して衛星設計・製作データ、衛星運用データ、受信電界変動から求めたアンテナ指向方向変化データを解析・検討し、急激な温度変化時のアンテナ反射鏡熱歪、姿勢誤差検出用地球センサ温度誤差、姿勢誤差検出用太陽センサの衛星軌道位置による感度低下などの存在を特定、これら要因による変化量を把握できた。この結果、反射鏡材料の炭素繊維強化プラスチックへの変更、姿勢誤差センサ検知部温度制御の改善などをBS-2a/2b設計に反映し、十分な指向精度を得た。


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