半導体露光装置(ステッパー)
概要
半導体露光装置とは、マスク1と呼ばれるガラス基板に描かれた微細な電子回路のパターンをシリコン基板ウェハ上に転写するIC製造工程で使用される装置である。なかでも、マスクパターンを極めて高性能なレンズを介してウェハ上に縮小し、ステップ状に繰り返し転写する装置を縮小投影型露光装置、ステッパーと称している。半導体製造工程のキーテクノロジーとして極めて高精度な露光工程を担う装置であることから、「史上最も精密な機械」2といわれている。
1978年、世界でいち早くステッパーを市場投入したのは航空写真解析を主業としていた米国のGCA社であり、1980年代初頭には世界で約9割のシェアを獲得していた。
日本においては、1976年、通商産業省(現・経済産業省)が「超LSI技術研究組合」(以下、「超LSI研」と呼ぶ)共同研究所を発足させ、ステッパー分野でも本格的な開発の旗振り役となった。共同研究所の所長に就任した垂井康夫は、その開発を参加企業の「基礎的共通的」なものとするとの理念を掲げ、全社に共通する有益な新しい技術を生み出すよう促した。
共同研究所でステッパーに関わる微細加工技術の開発を担当した研究室のうち、第3研究室を率いた東芝出身の武石喜幸は、1976年、ステッパーの試作機開発を2社、すなわち技術特性を生かしてニコン(当時の日本光学工業)には縮小投影型、キヤノンには等倍投影型露光装置を発注した。ニコンは従来から蓄積してきた精密加工・精密制御技術などを応用してこの試作機開発に取り組み、その評価試験データは装置メーカー、半導体メーカー等と共有され、更なる技術開発に反映されることとなった。そして、1980年、国産第1号のステッパーNSR-1010Gの製品化を果たすこととなった。
他方、キヤノンは近接投影露光型の装置での技術力をもとに複数の鏡を組み合わせた反射投影型装置の開発を目指し、1979年にはその製品化(MPA-500FA)に成功し、さらに、1984年にはニコンに次いで縮小投影型FPA-1500FAの発売を実現した。
2社が開発したステッパーは、その後もレンズ解像力の向上、生産性の改善を積み重ねていき、1980年代には先行した米国のGCA社製品の性能を凌駕するまでに成長し、1990年代初頭には世界シェアの90%をも占めることになり、日本の半導体生産を担う重要な地位を占めることとなった。ステッパーの開発は、機械、素材、装置関連のメーカー各社と官が一堂に結集し、共同組合方式でミッションを達成したイノベーションである。
i線ステッパー
画像提供:キヤノン