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高張力鋼

概要

 高張力鋼とは、ハイテン(High Tensile Strength Steelの略称)とも呼ばれる高強度鋼の総称である。欧米では、High Strength Steelを略してHSSと称し、最近の加工性の良い超高張力鋼板はAHSS(Advanced High Strength Steel)と称している。いずれにしても、ある製品を特定するよりは、高い強度を特徴とする鋼材を広く示す用語である。鉄の高強度化の歴史は古く、自動車用鋼板をはじめ、造船用厚板、鋼管、棒線など、あらゆる鉄鋼材料においてハイテンの開発が進められてきた。中でも、自動車用ハイテンは、鉄鋼メーカーが生産する高級鋼の代名詞とも言える。我が国自動車産業の発展は、このハイテンの絶えざる進化と軌を一にしてなされた面があり、それは材料の強度の指標を追うことで示すことができる。材料の強度の指標としては、外力に抗する最大の力、つまり引張り強さ(TS; Tensile Strength)で規定され、MPa(メガパスカル)で表現される。ハイテンとは、一般に引張り強さが490MPa以上の鋼材を指すが、自動車用の冷延鋼板及びこれを下地とする表面処理鋼鈑では、引張強さが340MPa以上でハイテンと分類される。自動車には、燃費や衝突に対する安全に関して規制があり、鋼材の薄肉化による自動車の軽量化、衝突時のエネルギー吸収と乗員を守るための強固なキャビンが必要で、ハイテンの使用比率はこのニーズに対応して年々増加してきている。また、自動車用薄鋼板の適用先は一様ではなく、ドアなど外観が重視される外板パネル類と、ホイールやロアアームなど走行に関わる足回り類、ピラーやロッカー、レインフォースなど衝撃に耐える内板・構造部材・補強部材に大きく分けられる。外板パネル類には、成形時のしわやひずみを抑えるため、炭素量を極限まで抑えた極低炭素鋼をベースに固溶強化や析出強化を利用した極低炭ハイテンが成形性や脆性などを克服して開発され、440MPa級まで使われるようになった。また、塗装の焼き付け処理で降伏応力が上昇する焼き付け硬化(BH:Bake Hardenabe)鋼鈑が開発され、現在まで広く適用されている。一方、足回り類用には主に熱延鋼板が使用されるが、成分と熱間圧延後の冷却制御によって、重要な加工性である穴広げ性を改善したハイテンが開発され、980MPa級まで使用する動きがある。内板・構造部材・補強部材としては、成分や製造条件の工夫により金属組織を制御して、成形性が良い980MPa級が開発、適用され、さらに1180MPa級を超えるハイテンまで適用先が広がっている。

 近年は、更なる部品の高強度化には、高温でプレス成形し、型の中で急冷して1500MPa以上の高強度部品を製造する熱間プレス技術が適用されており、1800MPa級を実現する鋼鈑や熱間プレス用めっき鋼板などが開発されている。

 日本が世界の鉄鋼業をリードしてきたハイテンの技術開発は、ユーザーメーカーとの密接な連携や協力のもとに進められ、時代の進歩に対応した製品づくりと日本の鉄鋼業の持続的発展を支えたイノベーションの歴史を体現している。

 

図1 ハイテン材適用車体例

図1 ハイテン材適用車体例

(画像提供:日産自動車)


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