公益社団法人発明協会

安定成長期

電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器

概要

 避雷器は、落雷などで発生する過電圧から送電線及び変圧器などの電力機器を守り、電力供給に支障を来さないようにするための保護機器で、約100年前から用いられている。

 1950 年代初頭の日本では落雷により停電が頻発したが、その後、系統・機器の信頼性向上と避雷器の性能向上により、1970年代初めには我が国は世界でも屈指の停電事故の少ない国として評価されるようになった

 しかし、当時の避雷器は連続的な落雷への対応(多重雷)や塩分などによる汚損に対する信頼性については未だ十分ではなく、また避雷器のコンパクト化・複合化といった新しい要求にも対応できていなかった。さらに、増大する電力需要に対応すべく電力業界で検討されていた次期送電電圧であるUHV(Ultra High Voltage)系統(1000kV以上クラス)の導入には、これまでに代わる高性能避雷器の開発が求められていたのである。

 1967年、松下電器産業(現 パナソニック、以下「松下」と呼ぶ)は酸化亜鉛(ZnO)を主成分とするセラミックス半導体素子(バリスタ:variable resistor 非直線性抵抗素子)を発明した。このバリスタは、主成分の酸化亜鉛に種々の微量添加物を混合して焼結したセラミックスであり、通常(常規対地電圧)では電流がほぼ流れないが電圧が一定の大きさを超えると電流が流れる(非直線性)特徴を有していた。

 明電舎はこの弱電用に開発されたバリスタを電力用避雷器に適用できないかと考え、共同研究を松下に申し入れ実現した。そして、1972年には松下との特許契約を結んで自ら素子の開発を行うこととした。技術的解決を要する多くの課題が存在し、製品化には8年の歳月を要することとなった。その間には石油危機による未曾有の不況が到来し、明電舎の経営も苦境に陥ったが、歴代社長の強い開発意欲と、社内一丸となったプロジェクト推進体制の構築の下に1975年、従来型避雷器の欠点を解消した画期的な電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器(MOSA: Metal Oxide Surge Arrester)の開発に成功した。同年、世界初となる66kV 電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器を九州電力の隼人変電所に納入した。

 酸化亜鉛形ギャップレス避雷器は、国内外の電力会社で導入が相次ぎ、明電舎は、2014年現在までに世界70か国以上の顧客に、500万相以上の避雷器と2000万個以上の酸化亜鉛素子を納入してきている。国内及び国際規格化の推進にも尽力し、国内では1984 年に世界で初めての酸化亜鉛形避雷器規格JEC-217、1991 年には国際規格IEC60099-4 が制定・発行されている。発明から40年を経た今でも酸化亜鉛素子を使った避雷器は避雷器の主流として国際的に普及している。

 酸化亜鉛形ギャップレス避雷器は純国産技術により開発され、企業間共同研究と強固な企業内開発体制の構築、維持の優れた成果として、世界の電力供給の安定に画期的な成果をもたらしたイノベ―ションである。2014年8月IEEE(米国電気電子学会)は本イノベーションをマイルストーンとして認定した。

電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器

電力用酸化亜鉛形ギャップレス避雷器

画像提供:明電舎


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