公益社団法人発明協会

高度経済成長期

脱硫・脱硝・集じん装置

発明技術開発の概要

(1) 石灰-石こう法接触還元脱硫技術

 「排煙脱硫技術」には、硫黄酸化物が容易に除去できるだけでなく、大容量の処理を行うことからシステムの長時間安定運転が可能なこと、本体装置の運転に支障がないこと、副生品が有効利用できること、廃液等が環境を汚染しないこと等が求められる37。 

 東北大学教授の村上、堀が開発した石こうの製造方法(特公昭30-2616号公報参照)は、亜硫酸カルシウムと水との懸濁液を酸素又は酸素含有ガスと緊密に接触させることにより、懸濁液を酸化し、無水石こう、半水石こう、結晶石こうを製造するものである。

 1955年に開始された実用化研究で、村上等が最初に直面した問題は、液相での亜硫酸カルシウムの空気酸化促進に用いた多孔板や素焼円筒等の空気吹き込み装置の亜硫酸カルシウムと石こう結晶による目詰まりと、同様の原因による吸収塔でのスケール(堆積物)の生成であった38。目詰まりについて、村上等は高速回転する横型円筒体の下部に空気供給管を設置したロータリーアトマイザー(気液接触装置)を開発することによりこれを解決した。この装置では、送入空気が回転筒体に巻き込まれ、引きちぎられて微細空気を発生した。スケールについては、吸収液の液性管理や液ガス比の向上、格子塔・スプレイ搭の開発により解決した。

 村上と堀は、日本産業技術の中川鹿蔵とともに研究を続け、1976年に従来排ガス中の二酸化硫黄の吸収と生成亜硫酸カルシウムの空気酸化を分離していた工程を、吸収塔で同時に空気酸化して良質な石こう結晶を得る「石こうを副生する亜硫酸含有鉱業排ガスの処理方法」39を開発し、この技術を完成させた。

(2) アンモニア排煙脱硝用酸化チタン触媒

 脱硝プラント用の触媒には、通常の化学プラント用の触媒と異なり、様々な性能が要求される。一つは処理するガスが大量であることから高活性であることであり、脱硝率も90%以上が求められる。また、耐久性があり硫黄酸化物に被毒しないことや、還元剤であるアンモニアが排煙中の酸素で消費されないこと等が求められる40。特に、350℃前後の環境下で運転されることから、この温度で高活性、高選択性を持つ触媒が求められる。

 日立グループは、数百種の触媒を試作してボイラー排ガスの組成に似せた模擬ガスの条件で200-400℃の範囲で活性を測定し、酸化鉄-酸化クロム、酸化鉄-酸化バナジウム、酸化鉄-酸化タングステンなどが極めて高い活性を持っていることを発見した。この中から製造コストに優れた酸化鉄-酸化タングステンとアルミナ系触媒の2つを候補としたが、次のパイロットプラントによるテストで、アルミナを担体とした触媒及び酸化鉄を担体とした触媒には耐久性がないことが明らかとなり、開発は振り出しに戻った。そこで、更に数千種類の触媒を試作し、様々な試験を行った結果、酸化チタン(TiO2)を担体とする触媒の耐久性が確認され41、さらに、電力会社に建設した実証プラントでのテストによりその実用性が確認された。

 武田薬品工業は、主触媒物質を開発した後、担体付長寿命触媒にする必要があると考え、ベンチプラントで種々の担体物質を探索した結果、酸化チタンに到達した。当時、触媒担体として使用可能な酸化チタンがなかったことから、酸化チタン顔料メーカーの石原産業の協力を得て、高表面積、耐熱性、耐食性のある酸化チタン触媒担体を開発した42

 火力発電所の燃焼排ガスには、窒素酸化物、硫黄酸化物に加え、ダストも多く含まれており、ダストによる閉塞や堆積も大きな問題となる。当初の触媒は、粒状のものであったが、その後、ダスト堆積が起こり難く、圧力損失が小さく、処理ガスの流速を大きくできるハニカム状又は板状の並行流形の担体に触媒成分を担持した触媒が開発された。

(3) 低低温電気集じん技術

 三菱重工業の低低温電気集じん機実用化は、中部電力との共同研究により、新名古屋火力実証設備のパイロット設備を用いて行われた43。当初、低低温電気集じん機ではダストの電気抵抗率が下がることから集じん性能が向上すると考えられていたが、実際は通常のものよりも出口ダスト濃度が増加するという現象が出現した。そこで、改めて自社研究所のモデル電気集じん機による試験を行った結果、この現象がダストの電気抵抗率の低下によるダストの再飛散によることが判明した。こうして再飛散対策を行えば安定的に高性能を維持することができることを確認できたことが実用化を前進させた。

 住友重機械工業の低低温電気集じん機の開発は、入口ガス試験模擬装置による低低温電気集じん基本特性データの収集から始められた44。この実験により、ガス温度を90℃程度以下とした電気集じん機では、ダストの電気抵抗の低下により、非常に安定した荷電で運用できることが確認されたが、高い集じん性能を確保するためには、通常の電気集じん機と異なる荷電特性を維持できる設計を行う必要があることが明らかとなった。さらに集じん機内部流速と集じん機性能の比較を行い、1994年に電源開発竹原火力発電所で実証実験を行った。

 

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