公益社団法人発明協会

高度経済成長期

コシヒカリ

発明技術開発の概要

(1)コシヒカリの特性

 コシヒカリの最も優れた特性は炊飯米の食味である。でんぷん中のアミロース含量がそれまでの日本品種の中で最も低く、炊飯米は柔らく粘りがあり、冷えても硬くなりにくい。しかし、そのほかの特性でも優れている点が多い。具体的には、玄米の外観品質がよい、耐冷性が極めて強い、種子の休眠性が強い、熟色がよく粘り強く登熟する、止め葉(最上位葉)が直立して受光体勢がよく登熟がよいことなどである。一方、いもち病に弱い、草丈(具体的には桿長)が長く倒伏しやすいことが弱点である。

 いもち病に弱いことは農薬で補ってきたが、新潟県は連続戻し交雑でコシヒカリにいもち病抵抗性遺伝子を導入した一連の同質遺伝子系統を開発し7、2005年から一斉に従来のコシヒカリを置き換えた。これにより、いもち病の弱点は解消された。

 コシヒカリは長桿で倒伏に弱いが、コシヒカリの場合は桿が折れる「挫折型」や根元から倒れる「転び型」ではなく、全体が傾く「なびき型」なので登熟(種子の形成)に対する影響は比較的少ない。山下ら8によると食味評価値と白米中のタンパク含量には負の相関がある。倒伏しやすいコシヒカリは少肥栽培される結果、白米中のタンパク質含量が下がる。これもコシヒカリの食味向上につながった。また、倒伏しやすいコシヒカリが広く作付けされ始めて来た頃に開発された自脱型コンバインは、倒伏した稲も刈り取れるように改良が重ねられた。このように倒伏に弱いという弱点が、食味や機械化などの思わぬ方向への波及効果を生んだ。

 コシヒカリの特色の一つである耐冷性(障害型耐冷性、出穂前10日前後の低温により正常花粉が形成されなくなり、籾が稔らない現象)は、亀の尾や愛国から引き継がれたと推定されている。コシヒカリは表2に示すように、現在普及している品種の中では最も耐冷性が強い品種の一つであり、その子孫には耐冷性に優れた品種が多い。コシヒカリの子であるひとめぼれは1993年の大冷害の時に、同じ出穂期のササニシキが甚大な障害型不稔を被ったのに対して被害が少なく、これを契機にササニシキはひとめぼれに置き換えられた。

表2 強以上の耐冷性基準品種・系統

表2 強以上の耐冷性基準品種・系統

(独)農研機構 平成21年度東北農研主要研究成果9より改写

 また、種子の強い休眠性も、現在普及している日本品種の中では最強の部類に属している。このため、コシヒカリは草丈が長く倒伏しやすいが、倒伏後の長雨による穂発芽の発生がほとんどない。

(2)コシヒカリの子孫系統

  コシヒカリは両親の農林22号と農林1号を越えて最強の交配母本となった。表3に示したとおり、2009年の作付面積上位10品種は全てコシヒカリかその子孫で占められ、その作付面積率の合計は77.5%に達した。コシヒカリが多数回交配母本として利用された理由はその食味を受け継ぎ、弱点の耐倒伏性といもち病抵抗性を改良するためであった。その結果、2位以下の品種は全て耐倒伏性といもち病抵抗性が改良されている。例えばキヌヒカリの交配親である北陸100号はコシヒカリの草丈を短くした突然変異系統である。

表3.作付面積率上位10品種の交配組合せと作付面積率(2009年)

表3.作付面積率上位10品種の交配組合せと作付面積率(2009年)
(3)海外への普及

  コシヒカリはベトナム、タイなど東南アジアでも高級品種として栽培されているが、その総面積は不明である。また、各国で交配母本としても利用されており、韓国の良食味品種の一品はコシヒカリの子のイナバワセが片親に使われた。

 

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